四阿屋(あずまや)の岩場

                     岩場概説

 鳥栖市内に位置する高度差20m、幅50m程度の花崗岩の岩場であり、福岡市近郊では初中級者向きの最
も手頃なゲレンデと言える。岩質は理想的に固いが、一方、フリクションの利きはやや悪い。岩場の右半分
はオーバーハングを交えて垂直に切れ落ち、左半分は傾斜の強いスラブ状を成している。花崗岩にしてはか
っちりとしたホールドが多く、傾斜のわりに登りやすい。
 岩場の左右から上部に回り込むことが出来、トップロープを取るための灌木には不自由しない。また登
攀終了点にはロワーダウン用のボルトがしっかりと埋めてある。さらに中間支点として短い間隔でペツル
タイプのボルトが打たれ、安心してリードすることが出来る。これだけの整備を行った方々には頭の下が
る思いがする
 昔から利用されてきたゲレンデだけに、狭いながらも主なラインだけで20本を上回る。さらに、色々な
ホールド制限を伴う、バリエーションが多数引かれて、豊かな課題を提供してくれる。多くのクライマーが
それぞれに独創的なラインを引いたが、特に、広瀬政廣氏を中心としたメンバーの活躍が華々しい。一方、
狭い場所にルートが集中しているため、ライン取りが分かりにくく、オリジナルとは違った部分を登って
しまうことがある。概念図では、格別なホールド制限を行わない、弱点を繋いだラインだと感じられるル
ートを掲載した。更に、バリエーションについても、数人の熟練者に聞き、私の知り得た部分については、
別に独立して纏めることにする。特に広瀬氏には多くの教えを受けた。
 旧石切場であったためか、岩壁基部は広場を成し、明るく開けて気持ちがよい。岩場の横を飲料となる
小川が流れているから、付近にテントを張ることも可能である。あらゆる点で練習場として使いやすい岩
場と言える。

 

                    

             アプローチ


1. 福岡市西部より
 国道385号線を南畑ダムに向かって進み、「市の瀬」バス停を過ぎ「中之島公園」から1.2キロのところ
で左に分かれる舗装道路に入る。入り口に「グリーンピアなかがわ」と大書された看板が立ててあるので、
間違うことはない。離合が出来ない部分が多い狭い車道を上り詰めたところが三叉路を成し(国道385号
線との分岐より5.6キロ、以下同じ)、真っ直ぐ進めば九千部山へ向かう。この三叉路を左へ入る。そのま
ま下ると県道329号線となり、河内ダムの手前で、右へ折れ橋を渡る(9.9キロ)。「鳥栖市民の森」を通
り、鳥栖市内方面へ向かって下るうちに、東(あずま)橋(12.8キロ)へ出る。右へ曲がって橋を渡る。
「長崎自動車道」が見えたら行きすぎである。東橋から0.4キロ程の右側に筑紫氏遺跡と駐車場があり、こ
のすぐ上で道は2つに分かれる。離合不能の右の道へ入り、小集落を過ぎて登っていくと、車道終点に広
い駐車場がある。ここまで国道385号線との分岐から15キロ、35分程度である。歩き始めて2分で歩道は
2つに分かれる。小川を渡り、左へ入る。さらに4分で左へ細い踏み跡が分かれるので、こちらへ入る。す
ぐにぐらぐらの鉄橋を渡る。道は広くなり、5分で右手に岩場が開ける。

2. 福岡市南部より
 国道3号線を南下し、JR「弥生が丘」駅の南、「永吉」で左に国道34号線が分岐する。国道34号線へ
入り、2キロほどで、「田代大官町」の交差点を右へ曲がる。そのまま道なりに進み、「池の内」交差点を
過ぎ「長崎自動車道」を潜ると、すぐに東橋に出る。または、県道31号線を南下していくと、そのまま鳥
栖筑紫野道路に入る。さらに南下すると県道17号線となる。その直後、「池の内」交差点に出る。こちら
の方が、渋滞が少なくて所要時間が短い感じがする。これ以降は前項を参照の事。


                ルート解説

○ホールド制限無し

1. ジグザグ(10m、5.6、ボルト2本)
 スラブの最も左手に引かれたライン。下部はホールドのしっかりしたフェイスで容易だが、上部はホー
 ルドが無くなる。ここはバンド伝いに左へ出て一段登り、右へトラバースして上に抜ける。最後の部分
 で大きな浮き石があるから、強引な動作は控える様に。

2. ジェードルラダー(10m、5.5、ボルト3本)
 ジグザグの右3mの所から容易なスラブをたどる。小ステップを越えて凹角へ入り、右上部のジェード
 ルを登る。奥のクラックがホールドとして使える。四阿屋で最も容易なルート。

3. 右上バンド(10m、5.6、ボルト2本)
 取り付きはジェードルラダーと同じ。小ステップを越えて、凹角へ入り右上バンド(むしろ凹角)をた
 どる。上部でレイバックの体勢を取ると登りやすい。このルートの右1m程の所を登るラインも在り、ボ  ルトが設置してある(4本)。終了点は同一地点。こちらは5.7程度。

4. スプリングギャル(16m、5.8、ボルト3本)
 コブ岩の左側を登る。下部は容易だがコブ岩の左下辺りで、左上するバンドに立ち上がる部分が、ス
 リップしそうで、気持ちが悪い。さらに上部はホールドが細かくなり、緊張する。

5. トゥーフィンガー(18m、5.10b、ボルト5本)
 のっぺりしたフェイスを登り、フレイクの上に立つ。ここまでは、かっちりしたホールドが多く、容易
 であり、またいくつものライン取りが出来る。〈コブ岩〉を真っ直ぐ越えるのが核心。途中に2本指の
 入るポケットがあり、これからルート名が由来する。オリジナルなラインは、コブ岩を乗り越すときに
 右の大きなホールドを使わずに、両脚でコブ岩の上に立って上に抜ける。この動作は、しっかりとした
 ハンドホールドが得られないために、リードの時は怖い。コブ岩を右寄りに抜けるラインは、気持ちの
 良いムーブだが、少し易しくなる。また、左から捲いてしまう感じになるとスプリングギャルに合流し
 グレードが落ちる。エイトマンの途中から左へ出てコブ岩の下で合流するラインも取られている。

6. エイトマン(18m、5.9、ボルト7本) 
 〈コブ岩〉の右1mあたりを直上するライン。下部は適当にルートが取れる。コブ岩の横を越える付近
 はホールドが細かく悪い。ある資料には5.8とグレードされているが、それよりははるかに難しいと感
 じる。

7. エレメンタリイ(20m、5.8、ボルト8本)
 壁途中にある立木の左下から取り付き、中間バンドに立つ。フレイク状のクラックを抜け、左へ出て上部  フェイス 左のカンテ沿いに登る。左への移動は微妙な動きを要求される。カンテへ出るときに時に左の  灌木へ手が伸びるが、これは反則だろう。

8. リトルドラゴン(22m、5.10c、ボルト8本)
 壁途中にある立木の左下から取り付き、立木の左でバンドへ立つ。ついで中間バンドを右に登る。このあ
 たりは岩が浮いているような感じがするから注意。立木の背後から最高点を目がけて直上する。フェイス  の上部で左へ逃げないように。最後は極小ホールドでの厳しい立ち込みが待っている。

9. 右カンテ(仮称、ルート名不明)(8m、5.8、ボルト6本)
 上部フェイスの右側を登るライン。3m上のガバホールドを掴めば後は何ということも無いが、それまで
 の一手が厳しい。

10. インディアン・フェイス(13m、5.10b、ボルト7本)
 中央カンテ左側のフェイスを登る。下部はフットホールドが細かく、体勢の保持が難しいのでエッジの効  くシューズが登りやすい。5m程の所から左にトラバースする部分がいやらしく、度胸がいる。左にある  水平バンドは使用禁止。その後の一歩も悪い。岩の表面の模様がインディアンの横顔を思わせるところか  らこの名が付けられた

11. 中央フリーウエィ(13m、5.10a、ボルト数不明)
 インディアン・フェイスとカンテとの中間をボルト伝いに直上する。上部は左寄りにラインを取るが、ラ  イン取りがはっきりしない。

12. カンテ(イントロダクションまたはフリーソロと呼ぶ人もいる)(13m、5.9、ボルト7本)
 大ハング左のフェイス部分を登る。手頃な難しさと快適なムーブによって、この岩場一番の人気ルートと  言える。取り付きはハング左横のフェイス、一段上ったところの左側にある斜上バンドをハンドホールド  としていかに使うかが第一のポイント、さらに中間部で左へ出て、一歩直上するところが核心。ここで  手間取っていると腕 力の消耗が激しくあえなくテンションということになる。

13. ミスターロンリー左(13m、5.10d、ボルト6本)
 大ハング左端から取り付き、ハング左上に出て「カンテ」の右側を登る。この時に、カンテのラインに
 面した部分のハンドホールドは使用しない。これは、ハング上部ののっぺりとしたフェイス部分を登る
 という、初登者のこだわりである。ただし、一箇所、フットホールドの使用は許されている。一旦「カ
 ンテ」と合流し、「カンテ」のラインはここから左へ移るが、右寄りに直上する。トウフックを効かせ
 て立ち上がり、右手を伸ばして、横に走る窪みを掴む(ミスターロンリー右はこのホールドを左手で使
 う)。左手のホールドとして、カンテ付近を利用するのは、上記のこだわりから反則となる。右手だけ
 で耐えながら一段足を上げ、今度は左手をぎりぎりに伸ばして、上部のホールドを掴む。リーチがない
 ときつい。

14. ミスターロンリー右(13m、5.11a、ボルト6本)
 下部のラインは「ミスターロンリー左」と同じ。一旦「カンテ」と合流し、ここから水平クラック伝いに  右へトラバース、縦に走る小カンテを利用してクラック上部に打たれた2列のボルトの中間部を登るが、
 ハンドホールドの利きが悪い。ハイステップに苦労して立ち上がった後のホールドも甘く、パワーと共
 にテクニカルな動きを必要とされる。

15. アスレチック(13m、5.11d、ボルト5本)
 大ハング中央を人工ホールドを使って乗り越し、上部フェイスを直上、クラック上部に打たれた右のボ
 ルトラインに沿って登る。緑色のしっかりした人工ホールドは、男性には使用制限が設けられている。

16. 初孫(14m、5.10a、ボルト6本)
 ハング右端を乗越すライン。アンダーホールドを利用してハング上のガバを掴み、ヒールフックで豪快に  乗り越す。後はしっかりしたホールド伝いに直上。最後は、左上バンドへ出、フレイクを伝い右へ出る。

17. パッチン(14m、5.10c、ボルト7本)
 取り付きは初孫と同じ地点。オーバーハングした凹角伝いに登る。体勢の保持が難しく登り切るために
 は相当なパワーを要する。上部は「てんとう虫のサンバ」オーバーハングの左側のフェイスを登るが、
 左の斜上バンド、及びフレイクは使用不可。

18. てんとう虫のサンバ左(14m、5.10a、ボルト7本)
 凹角状を一段登り、ハング下へ出る。ハング下を左へトラバースして一端左上バンドに立ち、ここから
 フレイク伝いに登り、最後は右へ出る。取り付きは19と同じ。

19. てんとう虫のサンバ右(14m、5.10b、ボルト5本)
 凹角状を一段登り、ハング下へ出る。ハング下を左へトラバースしてハングの上のクラックを掴む。右
 に移動し、ハングを正面から乗り越した後、アンダーホールドを利用して上部のクラックに手を伸ばす。
 クラック伝いに右上し、浅い縦クラックを使ってフットホールドの無いフェイスを越える。ここが核心  部 。

20. てんとう虫 ヴァリエーション(14m、5.10d、ボルト5本)
 下部を左の凹角にとる。取り付き直後のアンダーホールドの使い方が問題。上部はフィンガーパワーが
 必要であり、どうして指先の負担を軽くするか、微妙な体勢の保持も必要とされる。ハング下で「てん
 とう虫のサンバ右」と合流

21. グレードを信じなさい(14m、5.8、ボルト5本)
 岩壁左側の岩が重なった様な部分を登る。見た感じは岩が脆そうだが意外としっかりしている。全体が
 被っているものの、ガバホールドが連続し、ぐいぐい登ることが出来る。最後の抜け口が被っており核
 心部。

22. 無名ルート(名前が付けられていない?)(14m、5.7、ボルト3本)
 岩壁左端の部分を登る。「グレードを信じなさいと」同じような内容だが、最後まですんなりと行って
 しまう。

23. 左に付属した岩(6m)
 本体との間が、凹角状をなしていて、この部分、また右寄りのフェイス部分にボルトが埋めてある。私
 が登った限りでは、5.9までのラインが3本認められた。適当に登れば良い部分なので、説明は省略す
 る。

○ホールド制限を伴うバリエーション

・ファーストレディ(16m、5.10a)
 「スプリングギャル」に打たれたボルトラインの左側に身体を置いて登るライン。中間部の顕著な4角
 いフレイク状の岩と左側のガッチリしたカンテは使用しない。

・ドラゴンへの道(22m、5.10d)
 「エイトマン」のフェイスを直上(コブ岩との凹角は使用しない)、立木の下から右へトラバースし、
 リトルドラゴンへ合流する。

・リトルドラゴン・バリエーション(22m、5.11a)
 リトルドラゴンの最上部、厳しい立ち上がりの部分で、最後まで左側のカンテ状を使用しないで登る。
 体勢の保持が微妙で、バランス感覚と度胸が必要。

・レッグアップ(13m、5.11d〜12a)
 インディアン・フェイスの左側ののっぺりしたフェイスを登り、インディアン・フェイスに合流する。
 ホールドが細かい上に、股関節の柔軟性が要求される難ルート。取り付き付近に小さな人工ホールドが
 付けてあるが、これは女性のみ使用可。

・ミスターX(14m、?)
 ミスターロンリーでは許されていたカンテ側のフットホールドも使用しないで、ハングを越え、右にト
 ラバース気味にフェイスを斜上する。この時に、ハング上フェイスに走る横クラックも使用しない。途
 中のホールドが欠けたために、再登出来なくなったと言われる。

・カンテ直上(13m、5.10d)
 下部は、「カンテ」を登り、途中から「ミスターロンリー左」に合流する。核心部は変わらないが、
 それまでの腕力の消耗が軽減される。

・アトミックパワー(14m、5.11a)
 ラインは「パッチン」と同じ。ただし、パッチンの4箇所に黄色いペンキで印が付けてある。このホー
 ルドを使用しないで登る。

・還暦の逆襲(13m、5.10c)
 「カンテ」と「インディアン」の間を登り、インディアンと合流した所から、左へトラバース気味に
 ラインを取る。ホールド制限が厳しく、実際に登り方を見てみないと、文章での説明だけでは分からな
 い。ひょっとすると、「中央フリーウエイ」と同じラインかも知れない。どなたかコメントを頂ければ。

・てんとう虫のハング
 知り得た限りでは、「てんとう虫のサンバ右」のラインを挟み、右の部分に右から回り込むように越え
 るライン、ハング下から真っ直ぐにクラックを利用して乗り越すライン、左の部分に「パッチン」のラ
 インが取られている。

 この他、ルートのすぐ側に古いボルトが残されていて、派生のラインと考えられるが、独立したルート
として認められているのかはっきりしない部分もあった。ご存じの方はお教え願いたい。岩場の中央部はルートが密集しており、どのボルトがどのルートに属するのかはっきりしない場合がある。従って、各ルートのボルトの数は一部不正確な所があるので承知ありたい。
 バリエーションを開拓された方は、その内容、または公表された資料の名前を米澤まで連絡いただけれ
ば幸いである。この記載の上で、公知させたい。

 グレードは原則として既存の資料に従ったが、個人的には、全体的に辛すぎる感じがする。全てのルートは1~2ランク上のグレードと思った方が良い。その点は今後利用者間で調整していただければと思う。

 

 


       カンテを登る            岩壁左側(カンテからテントウムシのサンバ)

        

     ジェードルラダーを登る                カンテを登る

 

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