見晴らし岩

 ・

                 

                    岩場概説
 

 この岩場の存在はあまり知られておらず、また、一般的な紹介もされていないようだ。しかしなかなか気持ちの良い岩場である。鬼ヶ鼻から金山に向かって縦走する途中、10分程で南に向かって大きく展望が開けた岩場の上を通る。結構目立つ場所なので固有名詞が着いている気もするが、私は知らない。この岩場を「猟師岩山南壁」と標した記述を見たものの、猟師岩山よりはむしろ鬼ヶ鼻に近く、適当な名称とは言えない様な感じを持つ。ここでは便宜的に「見晴らし岩」としておく。(もっともこの名称にこだわるわけでは無いので、すでに固有名詞が付いているか、一般に通用する呼び名があればそれに従う)。  壁は全体が南面しており、高度差30m程の主岩壁と、左右に付属する右岩壁、左岩壁よりなる(三つ共に私の仮称)。主岩壁に残されたボルトの具合から見て、昭和50年代頃に開拓されたのであろうと思われる。しかし、最近10年以上に渡り利用されていない様だった。その為に、ボルトの腐食が進み、リードするには危険な状態になったが、2010年、主岩壁の整理に着手し、再び利用可能な状態へと復元した。   主岩壁には初心者向きのルートが少ないといった難点があったが、2013年春、高度差15m足らずの右岩壁に初心者向きのラインを引き、さらに主岩壁左端にも初心者向きのルートを作ったので、練習場として使用しやすくなった。右岩壁を右に回り込むと、東面が被り気味の5m前後の帯状の岩壁となる。4〜5本程度のライン(5.7〜5.10a)がとれるが、わざわざ登るほどの所ではない。左岩壁の開拓は遅れていたものの2015〜16年に大土木工事の末、6本のラインが開かれた。なお、縦走路の北側にも岩壁が存在するが、灌木が多くまとまりにも欠ける。無理すれば数本のルートが取れるだろう。しかし縦走路から丸見えなのでトラブルを避ける意味からもルート開拓はやらない方が無難だ。  展望台の左右下には主岩壁用のトップロープ支点のボルトが埋めてある。岩場の下に出るには、縦走路が岩壁に突き当たるすぐ手前から樹林帯を南へ回り込むように下降する。取り付き部分は小さな広場となっている。なお、主岩壁、右岩壁、左岩壁の全景写真は10枚以上の部分写真を貼り合わせた物であり、細部にゆがみや位置のずれが生じているので承知ありたい。

 

◯主岩壁

                    岩場概説

 主岩壁の幅は20m程度、最大高度差は30m、中間部分を帯状のオーバーハングが走り、壁を上部・下部に分けている。ルート数は8本を数える。その他に、人工登攀でオーバーハングを越えるラインが2つほど存在する(ただし、ボルトの腐食に注意)。南面しているために日当たりが良く、降雨後も壁の乾きは早い。多くのラインはハング帯下のテラスが終了点となり、登攀距離は15m程度である。いずれのラインも、簡単にトップロープを取る事ができる。               

 

                    ルート解説

 以下に紹介するルートの内、1〜7は既成のラインであろうが、何れもルート名が不明なため、概念図に記した番号で示している。ルート名をご承知の方は、お教え願いたい。概して岩質が良く、快適な登攀が楽しめる。外傾した甘いハンドホールドを頼りに、片脚スクワットの要領で立ち上がる動作が結構出て来るので、脚力が弱いと苦しい。

1. ルート1. (5.10a、15m、ボルト4本)
 岩壁の最も右手に引かれたライン。下部は外傾したバンドをハンドホールドにするが、掛かりが悪く、体
勢の保持に苦労する。上半は、ホールドがしっかりしてくるので楽になる。ハング帯下のテラスが終了点。ここまでは、縦走路から岩壁の右側(下から見て)の樹林帯伝いに(フィックスあり)ノーザイルで来ることが出来る。

2. ルート2. (5.10d、15m、ボルト5本)
 ほぼボルトのラインにそって登る。下部は一見楽に見えるが、ハンドホールドが悪く、結構難しい動作が
連続する(5.10b)。核心は最上部のフェイスで、細かいホールドを利用しての微妙なバランスクライミングを強いられる。

3. ルート3. (5.10b、30m、ボルト10本)
 岩壁の中間部分に帯状のオーバーハングが走り、これは登攀不能を思わせる。しかし、中央が段違いに
なっているので、この部分に形成された凹角をフリーで抜けることが出来る。まっすぐ岩場の頂上まで抜けるラインは、爽快であり好ルートと言える。取り付きより下部ハングの右端を目がけて直上する。2本目のボルト前後のフェイス部分が技術的核心部となる。クラックを伝って凹角に入り、これを左に抜ける。空中に浮いた感じがして、高度感が素晴らしい。一旦左のカンテに立った後、右の壁が被った凹角を左上し、右のフェイスへ移る。後は傾斜が落ちて容易となる。

4. ルート4. (5.9、14m、ボルト4本)
 フレイクを利用して一段上がり、バンドを左上し穴状のホールドを取る。ここから右のクラックへ移る。
そのままクラックを伝い、上部で左へ出てハング下の小テラスへ這い上がる。この小テラスまで、主岩壁左の凹状部(フィックスが張ってある)をノーザイルで登って来る事が出来る。

5. ルート5. (5.10b、13m、ボルト5本)
 フェイス左に引かれたライン。見た感じよりも悪く、特にハンドホールドに乏しく手を焼く。全体に気を
抜けない動作が連続するが、上半部のダイクを越える辺りが核心部。

6. ルート6. (5.11b、22m、ボルト6本)
 二段になったオーバーハングの左を乗り越す難ルート。取り付きは「アンダーホールド」中間点の外傾テラス。ここまでは主岩壁左の凹状部をノーザイルで登って来る事が出来る。外傾テラスより右上し、2m程のハングを越える。フィンガーパワーが弱いと身体の引きつけが出来ず、苦しくなる。ハングを越えると緩傾斜部分を右上し、二段目のハングを凹角伝いに越える。こちらは下のハングほど悪くはない。この上は傾斜が落ちる。

7. ルート7. (5.11a、14m、ボルト5本)
 オーバーハングの右端を越えるルート。ハング下テラスよりハングの右端目がけて登り、頭を押さえられ
たところで、左へ身体を振り込んでハング上のホールドを取る。ボルトはハングの右側壁にあるので見落とさない様に。ガバを掴んでしまえば一気に身体を上げるが、それまでの体勢の保持が悪い。「ルート1 」から繋ぐと、頂上までのラインとなる。

8. アンダーホールド(5.10a、30m、ボルト9本 )                           主岩壁左端に引かれたライン。フェイスを3m登り、一旦、テラスに立つ。ここからワイドクラックを登った後、緩傾斜のフェイスをたどり、外傾テラスに出る。ついで、ハング下をアンダーホールド伝いに左上し、左端を乗り越える。ここが核心部。小テラスに立った後、フレイクを登って、ハングに突き当たる。ここもアンダーホールド伝いに左上し、ステップを越える。傾斜の落ちたフェイスを右に登ると終了点。途中の外傾テラスにトップロープ用のボルトが2本埋めてあるので、ここでピッチを切るとマルチピッチのザイル操作の練習が出来る。

 

 

 

                     主岩壁全景                

 

              右:ルート3、 左:ルート4

 

                ルート3下部を登る

 

◯右岩壁

                    岩場概説

 右岩壁の幅は20m程度、最大高度差は15m弱の岩壁である。比較的傾斜が緩くホールドも豊富なので初心者向きの良いゲレンデとなる。縦走路から下降すると(フィックスザイルが張ってある)、右岩壁上の樹林帯を横切り、主岩壁中段右のテラスに出ることが出来る。この途中の灌木からトップロープを取る事も可能だが、小灌木がうるさい上に、ザイルの汚れが酷くなる。上部が樹林帯となっているので雨後の乾きが悪く、特にモイストクラック周辺は濡れている事が多い。              

 

                    ルート解説

 現在の所、9本のラインが引かれており、各ルートの終了点にはトップロープ用のピンが設置してある。右方カンテ左ルートおよびモイストクラックは昔登られた形跡があるが、一切記録が見つからないので、便宜上名前を付けた。昔の名前が分かれば、訂正したい。                       

1. 右方カンテ右ルート(8m、5.6、ボルト2本)                           カンテを右へ回り込んだ地点から取り付く。最初のフットホールドの位置が高いが、大きなハンドホールドがあるので問題ない。これに立ち上がると上部は容易。

2. 右方カンテ左ルート(9m、5.7、ボルト3本)                           カンテ左側のフェイスを登る。4m上の小テラスへ立ってからが核心部。ハンドホールドに乏しく、体勢の維持が難しい。終了点は右ルートと同じ。

3. 甘いクラック(10m、5.10a、ボルト3本)                             大木の後から取り付く。6m登って小ハングを越えるところが第一のポイント。右から越えると楽になる。ついで浅いクラックを登るが、引っかかりが悪い。一段上がり、テラスの奥に手を伸ばした所にカチがある。最後は頭上のハングを抱え込むようにして立ち上がると、終了点のピンが打ってある。

4. 小ハング右(10m、5.7、ボルト3本)                              階段状の部分をフレイク伝いに登り、正面から小ハングを越える。右から回り込む事も出来るが、ここはまっすぐ行きたい。ハング上はカチホールドが続く。

5. 小ハング左(10m、5.8、ボルト3本)                              階段状を登り、小ハングを越える所で一瞬ルート4と合流する。その後、クラックを左へ伝う。レイバックの体勢に入ると楽になる。

6. 中ハング越え(10m、5.10c、ボルト3本)                            テラスへ上がり、ハング中央のクラック目がけて直上。クラック伝いにハングを抜けるが出口のホールドが乏しく悪い。クラックをいかに使うかがポイント。

7. モイストクラック(9m、5.8、ボルト3本)                            ワイドクラックを登り、一旦、テラスへ立つ。左上のバンドへ立ち、浅いクラックをホールドに一段上る。ここが核心。上部は楽になる。クラックは湿っていることが多い。

8. 中間フェイス(10m、5.8、ボルト3本)                             フェイスを直上するライン。正面から取り付くのは一歩だけだが10台。左右から回りこめば楽勝。1、2歩が悪いが後は容易となる。6m程登り1.5mほどのステップを越える部分が第二のポイント。

9. ダイレクトクラック(13m、5.8、ボルト4本)                          凹角に取り付きクラック伝いに登る。6m程登った所で戸惑うが、左の緩傾斜面にカチホールドがある。最上部はバックアンドフットを使用すると楽になる。頭上の灌木を掴み左のテラスへ出る。

    

 

 

 

                    右岩壁全景

 

       右岩壁を左から見る               右岩壁を右から見る

 

                   甘いクラックを登る

 

◯左岩壁

                    岩場概説

 左岩壁は大きな二つの岩塊よりなり、その間がチムニー状の凹角となっている。右の岩塊は高度差15m程度、巨大なオーバーハングを持ち、その迫力に圧倒される。開拓が遅れていたが2015年5月に福岡想山会の平田氏らにより両岩塊の間に入る凹角を登り、右の岩塊上部のフェイスへ繋ぐ新しいライン、「岩またぎルート」が開かれた。この開拓に刺激され、同年10月から本格的な整備に取りかかって、5本のラインを引いた。これによって、左岩壁の開拓は終了したと言えるだろう。登攀距離は短いものの、ハングを越えるルートは爽快である。

1. ボーダークラック(27m、5.7、ボルト3本(アンダーホールドと合流まで))             主岩壁と左岩壁とを分けるクラック辿る。駒形スラブ終了点の小テラス右端からチムニー状を一段上って右へ移りアンダーホールドと合流する。右へ出ずにチムニー状を直上するのは、上部の大きな鱗状岩が引っかかっているだけなので止めた方が無難だ。

2. 駒形スラブ(6m、5.10a、ボルト2本)                                将棋の駒の形をしたスラブを登る。1本目のボルトから左へ移り、ステップを乗り越す。ついでスラブ左寄りを登って、外傾した小テラスへ出る。

3. 大ハング中央(15m、5.11a、ボルト5本)                          大ハングを正面から越える豪快なライン。始めはハングの途中に人工ホールドを取り付け、5.10bとしていたが、鹿児島黒稜会のメンバーにより、完全にフリー化が成された。凹角状を詰めてクラックを登る。いったん、ハング下の小テラスへ立ち上がり、フレイク状のホールドを使用して身体を上げ、思い切ったランジで左手を伸ばすとハング上のガバホールドに手が届く。後は一気に身体を引き上げる。ここで「岩またぎルート」に合流する。ルートの迫力からすると見晴らし岩を代表するルートの1本と言えるが、実質的にワンムーブ。

4. 大ハング左ルート(15m、5.11b、ボルト5本)                           下部は「岩またぎルート」と同じライン。フェイスを越え右の大ハングの左端を辿る。被っているがハンドホールドがしっかりしているので何とでもなる。ただしハングの上に立ち込むのが厳しい。アンダーホールドをいかに使うかがポイント。ハングを越えたところで「岩またぎルート」に合流する。ハングを越えるという事にこだわり、凹角に挟まった鱗状岩、また凹角の左側の岩には触れない。これに触れるとルートの質が一変しハングを越えた事にはならない。 

5. 岩またぎルート(15m、5.10a、ボルト3本)                            取り付きはおむすび型スラブの中央。5m程でこれを越え、凹角の間に挟まった大きな鱗状の岩を登り、凹角を左から越える。ついで右のフェイスへ移り、これを直上する。フェイスはハンドホールドに乏しく少々怖い。安定したバンドへ出て終了。

6. 左のハング(10m、5.11a、ボルト3本)                              岩壁左端の凹角を登り、ハングに抑えられたところから左に移って被った凸状の岩を登る。2本目のボルトにクリップする体勢が悪いので注意。この上が核心部、レイバックの体勢にどうやって入るか。一段身体を上げ、右手で外傾気味のガバホールドを取る。後はクラック伝いに垂壁を越える。さらに上部は傾斜が緩み容易。        

          

 

    

                      左岩壁

 

                    大ハング中央を登る

 

               

 前のページへ戻る