油山川の岩場
岩場概説
油山川の岩場は、2012年、油山川を遡行中、偶然に発見した岩場である。この岩場は高度差13m、幅30m程度の壁(メインフェイス)と、高度差10m、幅25m程度の壁(ミドルフェイス)、高度差6〜8m、幅30m程度(サブフェイス)の三つの壁からなっている。スケールは小さいものの、現在知られている岩場の中では最も福岡市内に近く、市内バスの停留所から歩いても40分程度で岩場の下に着く。谷筋に位置しており、風が当たらず真冬でも使える手近なゲレンデとして有用であろう。メインフェイスとサブフェイスは2013年に、ミドルフェイスは2018年に整備が完了した。メインフェイスとサブフェイスの下は安定した広場となっている。岩質はしっかりとした花崗岩であるから思い切った動作が可能であり、登っていて楽しい。いろんな面で利用しやすい岩場と言えるし、大いに利用していただきたいと願っている。ステンボルトが設置してあるが、クラックは原則としてカムを使ってプロテクションを取る様になっている。従ってルートによっては小型のカムを持参しなければならない。また各ルートの終了点にはチェーンとカラビナが残置されている。一方、岩壁上部の灌木帯に生えている立木からトップロープを取る事も出来るが、トップロープ支点を岩壁まで持ってくるためには20m程度のザイルが別に必要となる。立木から直接トップロープを取ると、ザイルの汚れが酷くなる。岩場の上に腐植土の斜面が続いているために、落ち葉、土砂が降ってくるのが欠点で、ミドルフェイスとサブフェイスは定期的にバンド上の積もった落ち葉、土砂のクリーニングをしなければならない。各フェイスの全景写真は10枚以上の部分写真を貼り合わせた物であり、細部にゆがみや位置のずれが生じているので承知ありたい。
アプローチ
国道263号線を南下し、西鉄早良営業所手前の信号を左折して市内バスの路線通りに車を走らせると、0.8キロで(さわら台団地南口バス停50m手前)右へUターンする形で車道が分かれる。この道に入り、100mで変則的な三叉路に出るから真ん中の道を進む。100mで車道に突き当たり、右へ曲がる。すぐに左から早良更正園への道が合流する(道標あり)。この道へ入り0.4キロで早良更正園につくが、これを通り過ぎ砂利道を進む。0.2キロで車2〜3台は駐車可能な小広場があり、ここに車を止める。この先まで行くと、Uターンがやっかいなことになる。
そのまま林道を10分弱歩くと、左へ油山への登山道が分岐する。これをたどり5分強で十字路に出る。ここをまっすぐ進み油山をめざす。前述の十字路から3〜4分登った所の道の左側に「岩場」と書かれた小さな道標 が設置してある。ここから左の尾根を越え、ほぼ水平に踏み跡をたどる。要所には赤や黄色のテープが巻き付けてあるからルートは明瞭、歩きやすい。3分ほどで油山川沿いとなり、沢の左岸を辿る。岩壁が見え出す辺りで沢を渡るとすぐにメインフェイスの下に出る。道標から10分強程度。サブフェイスへは、さらに右岸を辿り、ミドルフェイスを経て5分弱。このコースは、九大山岳部OBの片桐氏によって整備された物である。
市内バスを利用する場合は、さわら台団地行きのバスに乗り(西新パレス前経由(行き先番号3)もしくは荒江四角経由(行き先番号200))さわら台団地南口で下車する。後は、上に述べたコースをたどる。野芥方面から芝池経由で入ることも出来るが、こちらのアプローチは種々の理由から薦めない。
油山川の岩場位置図
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岩場への分岐点道標
◯サブフェイス
岩場概説
最大高度差は8m程度、スケールは小さいものの岩質が良いので快適な登攀が楽しめる。フィンガークラック、コーナーが多く、それらの練習に適している。また、マントリングを多用するので、その練習場ともなる。平均傾斜は70〜90度。手頃なルートが揃っており、初心者のゲレンデとして有用である。トップロープを取る場合は、岩壁を右から回り込む。岩壁上部の樹林帯には危険防止のためのフィックスロープが張ってある。
ルート解説
1. 左のマントル(4m、5.8、ボルト1本)
岩壁左端のライン。小コーナーに取り付き、バンドへ這い上がる。最後はマントリング。終了点は立木。
2. ベビーフェイス(5m、5.9、ボルト2本) 二つのコーナーの間のフェイスを登る。傾斜は急だが適当にホールドがある。最後はマントリング。
3. 左のコーナー(5m、5.8、ボルト2本)
小コーナーに取り付きバンドまで。コーナーは問題ないが、テラスへ這い上がるところが悪い。ここで立木を掴むのは反則とする。終了点は「左のマントル」と同じ立木。そのままモンキーフェイス上部へ繋いでも良い。
4. モンキーフェイス(8m、5.10a、ボルト3本)
フェイスを直上、いったんテラスへ這い上がるが、テラスに乗った鱗状の岩をどう使うかがポイント。この岩は動くが、落下することは無い。ここから右上にラインを取り、外傾テラスに出てから木の根をホールドに上へ抜ける。大木の根でトップロープが取れる。
5. 三角柱(8m、5.9、ボルト3本)
綺麗な凹角を目指す。傾斜は急だが凹角内部はカチホールドが多く楽勝。抜け口をハングに押さえられるので左の外傾テラスへ逃げるが、ここが悪い。ついでカンテを右に回り込み凹状部を登る。終了点は大木の右側。大木の根でトップロープが取れる。
6. 銀河鉄道(10m、5.8、ボルト3本)
取り付きは三角柱と同じ地点。3m登った所から右上にバンドをたどり、突き当たりのテラスからフィンガークラックを伝って上に抜ける。
7. ミニハング(8m、5.10a、ボルト5本) 小さなハングの下から取り付き、一旦、銀河鉄道の外傾テラスへ出る。ここから垂直に近い上部のフェイスを登る。最後は左へ出て凹角に入り終了。
8. 舳先カンテ(8m、5.10b、ボルト5本) 凹凸の多い壁を越え、テラスへ出る。上の舳先状のカンテを利用して登り、右へ出て正面から外傾テラスへ這い上がる。ここはハンドホールドが甘い。最後は「銀河鉄道」と合流。
9. 凧揚げコーナー(8m、5.10a、ボルト3本)
小カンテを利用してテラスへ這い上がり、右へ移動してコーナーの下へ出る。コーナーを登るが、左手と左足のホールドが甘い。終了点は2本のボルト。
10. コーナークラック(8m、5.10b、ボルト3本、キャメロト0.5を2個)
フェイスの一歩が悪い。一段上がった所からギリギリ右手を伸ばすと2本指が入るポケットがある。痛い指先に耐えて立ち上がり、正面からマントルでテラスに這い上がる。左のテラスへ逃げることも出来るがここは正面から行きたい。テラスからは右上に伸びる左開きコーナー奥のフィンガークラック伝いに登る 。フィンガークラックはカムでプロテクションが取れるが、初心者が設置したカムは外れることがあり、危険防止のために1本ボルトを打った。熟練者には必要の無いボルトだが、撤去しないように御願いする。
11. センタークラック(7m、5.10c、ボルト2本、キャメロト0.5、0.75、2を各1個)
岩場の下に立ったときに、まず目が行く部分ではないだろうか。岩壁中央上部に位置する被り気味のクラックをたどる快適なライン。一段上った後、フィンガークラックをレイバック気味に登る。ジャミングで登ることも出来、貴重な練習場と言えるだろう。ここもカムが利くが、危険防止に1本ボルトを埋めてある。
12. ワイドクラック(6m、5.8、ボルト3本)
取り付いてレイバック気味にテラスに上がる部分が核心。テラスに立つと後は問題ない。最後はワイドクラックを登り、バンドを右へたどって終了。
13. 青虫フェイス(6m、5.10a、ボルト4本)
岩壁右端の小コーナーを登り、バンドへ立つ。ついで左へ移動しフェイスの中央へ出る。この上が核心部、上のバンドへ立ち上がる部分の体勢が不安定。ついで上の小コーナーをたどり、マントリング + 片足スクワットでバンドへ立ち上がる。核心部はフットホールドに乏しく、腕力頼りの動作が続く。
14. 右のコーナー(6m、5.10c、ボルト2本)
小コーナー左のフェイスを登るが、フットホールドが乏しく、かなり悪い。マントリングの技術が無いと、手も足も出ないかも知れず、そういう人にとってはここが技術的核心と言える。いったんバンドへ立ち、上の小コーナーを伝うが、指先の負担が大きく、見た目よりも悪い。上部は思い切ったランジで右手を伸ばすと何とか指が見えないホールドに引っかかる。最後はマントリング。
サブフェイス全景
センタークラック
センタークラック
三角柱
コーナークラック取り付き
コーナークラック
◯ミドルフェイス
岩場概説
メインフェイスとサブフェイスの中間に位置する最大高度差10m、幅25m程度のフェイスである。全面が湿った苔に覆われていた上に、灌木が茂り、見た感じが汚らしかったので、長い間放置していた。2018年秋、延べ20日間ほどをかけた大工事の末に整備してみるとそれなりの岩場になった。初心者、初級者向きの適当なゲレンデとなる。平均傾斜は70度程度。中間部を走るバンド(第1バンド)によって上下二つの部分に分かれる。第4バンドへは第3バントからザイル無しで登ることが出来、簡単にトップロープが取れる。水の流れに近く、注意していないとザイルが汚れるのが欠点。 岩壁上部の樹林帯と第3バンド、第4バンドには危険防止のためのフィックスロープが張ってある。
ルート解説
1. ホップ・ステップ・ジャンプ(5m、5.6、ボルト3本)
左上バンドを伝い、2m程のステップを越え、第1バンドへ立つ。更に同様のステップを越えた後、3つ目のステップを越えてテラスへ出、終了。 テラス上部に打たれた2本のボルトが終点。トップロープを取るときは、第2バンドを伝いザイル無しで終了点に出ることが出来る。
2. フェイス左(6m、5.8、ボルト2本)
斜上バンドの途中から取り付く。マントル気味に第1バンドへ立ち、正面の壁を「ホップ・ステップ・ジャンプ」の終了点のテラス目がけて登る。最後の部分が意外と悪い。
3. センターライン(11m、5.10c、ボルト5本)
ダイレクトの左より取り付く。右斜上小バンドを伝い、第1バンドへ上がる。ここから真上のフェイスを登る。ガバホールドが続いているがフットホールドの裁きが悪く、見た目よりも難しい。左寄りに登り、途中から右へトラバースする部分が核心。アンダーホールドをどう使うか。壁の途中に打たれた2本のボルトが終点。
4. ダイレクト(5m、5.10d、ボルト5本) 岩壁の最下部より取り付く。一段上がった後、右へトラバース気味に登り、第1バンドに上がる。ここからが核心部、右にあるフレイク状のフットホールドに立ち上がるところが第一のポイント。この上でフットホールドが不安定になるので、腕力頼りで強引に身体を引き上げる。壁の途中に打たれた二本のボルトが終点。トップロープをとる場合、第4バンドから終了点へ出ることが出来るが、ザイルが必要。
5. ストラップハング(10m、5.10b、ボルト5本)
右上する小バンド(小凹角)を登って、第1バンドへ立つ。ここから頭上のオーバーハング(この上が第4バンド)を目指し、左端を越える。オーバーハングの上にしっかりしたホールドがあるので、見た目ほど悪くは無い。最後は2m程フェイスを登り、壁の途中に打たれた二本のボルトが終点。トップロープをとる場合、第4バンドからすぐに終了点へ出ることが出来るが、ザイルが必要。
6. エクゾダス(8m、5.10a、ボルト4本) 岩壁右端より取り付く。左へトラバース気味に登り、第1バンド右端へ出る。ここから真上の小カンテ状を直上、最後はクラック伝いに第4バンドへ出て終了。
7. 右の左(7m、5.9、ボルト4本) 取り付きは「エクゾダス」と同一地点。最初のボルトの所から左寄りにラインを取る。取り付き部分が濡れていることが多く、靴底が汚れるのでその後スリップしやすくなり注意がいる。上部で帯状の小ハングに遮られるが、これを越えて第4バンドへ出る。
8. 右の右(5m、5.8、ボルト3本) 取り付きは「エクゾダス」と同一地点。最初のボルトの所から右寄りにラインを取る。第3バンドへ出て終了。
ミドルフェイス全景
ミドルフェイス整理前
ストラップハング
センターライン
◯メインフェイス
岩場概説
最大高度差は13m程度、近郊にある岩場としてはまあ我慢出来るスケールと言えよう。傾斜はアプザイレンすると分かるが、かすかに被っている。一気に切れ落ちている割にはホールドが豊富であり、結構ラインが引ける。しかし、初心者向けのルートが無く、これが欠点。ミドルフェイス、サブフェイスと組み合わせれば初心者から中級者まで楽しめる。 トップロープを取る場合は、岩壁を右から回り込む。岩壁上部の樹林帯には危険防止のためのフィックスロープが張ってある。
ルート解説
1. 二連ちゃん(7m、5.10c、ボルト1本、キャメロットNo. 2を1個)
岩壁左端のライン。取り付きからランジ一発。一段身体を上げてさらにランジ、がっちりしたホールドを掴めば後は問題なくテラスに這い上がる。上部はコーナーの奥に入るクラックをレイバックで抜ける。終了点の立木でトップロープが取れる。
2. 上を目指して(9m、5.11a、ボルト4本)
取り付きから一汗かかされる。各悪場にアンダーホールドがあるので、これを見つけるのがポイント。3本目のボルト右上のホールドを取り、身体を上げるのが核心の動作。最後はバンドへ立って終了。終了点には二本のボルトが打ってある。全体に悪い部分が続き、気が抜けない.
3. 左ダイレクト(13m、5.12a、ボルト6本) 取り付きのハイステップに立ち、身体の向きを逆にするところが、第一のポイント。上のスローパーホールドを取り、この上に立ち上がる。ここからの2mが核心部で外傾気味のカチホールドと極小のフレイクを利用して一段上がる。さらに上部のスローパーホードを取り、外傾バンドへ出る。一旦、右へ移動して左上する。最後は右にフェイスを越える。悪い動作が連続し、腕力の消耗が激しい。
4. 左のフレイク(12m、5.10b、ボルト5本)
岩壁右寄りに三本のフレイク状クラックが走っている。このルートは左側のフィンガークラックを伝い安定したスタンスに立った後、引っかかりが悪いフレイクを使って左上気味にラインを取る。小ハングを越えて左のテラスへ立ち上がる部分が核心。テラスからはレイバッ クを使って右のカンテを登る。難しくはないが、身体が回転しそうで怖い。終了点は二本のボルト。
5. 中央のフレイク(12m、5.11b、ボルト4本)
3本並んだ中央の引っかかりの悪いフレイクを登りいったんバンド状テラスへ立つ。ここから直上、バンドへ上がり、最後はのっぺりとしたフェイスを左上へ抜ける。ここはホールドが甘く遠い上に、体勢が不安定になり苦しい。終了点は左のフレイクと同じ。途中からバンドをトラバースして左のフレイクへ逃げることが出来る。その場合の難度は5.10a。
6. 右のフレイク(10m、5.10a、ボルト3本)
右側のフレイクを登るライン。フレイク伝いに左上し、バンド状テラスへ立つ。ここから小コーナーに沿って直上。傾斜は急だが、ガバホールドが連続するので難しくは無い。ただし、最後の部分のホールドが小さく、苦労させられる。最後はホールドの無い垂壁となり、登攀不可能。垂壁の途中に打たれた二本のボルトが終了点。
7. 右のフレイクダイレクト(10m、5.11a、ボルト4本) バンド状テラスから右へ出て、ほぼ直上する。途中で厳しいランジが出てきてここが核心。ランジの体勢に入るのが難しいが、リーチがあるクライマーならば、安定した体勢からのランジで済み、かなりグレードが低下するだろう。最後はホールドの無い垂壁となり、登攀不可能。垂壁の途中に打たれた二本のボルトが終了点。 全体に緩みがなく、好ルートと言える。
8. 右のコーナー(8m、5.10b、ボルト3本)
フレイク状のアンダーホールドを使って身体を上げ、小コーナーを伝う。上部で右のバンドへ立つ部分が核心。トップロープ支点として、ボルトが二本打ってあるが、そのまま右へバンド伝いに樹林帯へ出ることも出来る。
9. フィンガーパワー (8m、5.11b、ボルト3本) 小さなカチホールドで身体を引き上げる動作が続き、フィンガーパワーが弱いと苦しくなる。上部ではアンダーホールドをいかに使うかがポイントとなり、最後の厳しいランジをどうこなすか。バンドへ上がる所は右の小凹角伝いに登るのを正規ラインとする。めんどうくさければ、「右のコーナー」の片足スクワット一発。
メインフェイス全景
メインフェイス左側
メインフェイス右側
右のフレイク
フィンガーパワー