さざ波エリア概説
鬼岳を過ぎ、国道269号線を更に南下していくと、立神公園から9.4キロの所で、短い半トンネル、続い
て長い全トンネル(伊座敷洞門)に出くわす。トンネルの名称プレートは伊座敷側の入り口に付けてある。
この長い全トンネルを抜けると、そこは伊座敷の集落である。トンネルのかなり手前からでも、伊座敷洞門
の海岸側に高度差20m程の急峻な岩壁が波打ち際まで切れ落ちているのが見える。この岩場は、1987年、
西郷によって発見され、「さざ波エリア」と命名された。その後、西郷、米澤によって開拓が進められた。
岩場としての美しさは岸良の岩場に劣るものの、クラックの練習場として貴重な所である。特に、大ハング
に切れ込むクラック(ブロー・オブ・ポセイドン)は圧巻であり、初めは人工登攀交じりで登られたが、そ
の後、当時、まだ高校生であった小山田大氏によってフリー化された。各ルートの名称はなかなか凝ってい
るが、これは西郷の好みであって、彼の命名法に付き合うと、いつも頭を悩まされる事になる。
短い半トンネルの手前に車を止めるスペースがある。ここから、釣り人が使用する踏み跡が海岸まで降り
ている。岩壁の基部左側へは、海岸伝いに数分で着く。基部は広い岩棚となって安定しているが、ただし、
風が強いと、波のしぶきをもろに被る恐れがあるから注意すること。
中央に落ちる深いルンゼによって岩場は左右二つの部分に分けられる。右半分へ行くには、ルンゼによっ
て遮られ、引き潮の時以外は、簡単に渡ることが出来ない。一方、岩場の上を廃道が走っており、廃道を通
れば、橋を渡って、簡単に右半分上部に出られる。また、廃道に生えている灌木からトップロープを取るこ
とが出来る。ボルトは残置されていないが、カムが使えるので、リードすることも可能である。伊座敷洞門
を100m程進むと、半トンネルが全トンネルと変わる。この手前から、ガードレールを乗り越えて、海側に
出たそこが廃道である。最近は、灌木が増え、半ジャングル状態となってしまった。
さざ波エリア左半分概念図
さざ波エリア右半分
ルート解説
1. ウエイブレッツ・ラメント(10m、5.8)
岩場左端に食い込むハンドクラック。入り口がハングしており、いきなり腕力登攀を強いられる。ク
ラックへ入ってしまえば、フィンガージャムの練習にもってこい。
2. マーメイド・ジェードル(15m、5.10b)
凹角の奥に走るハンドクラックを5m程登ったところから、平行する左のフィンガークラックへ入り、こ
れを詰める。ラインは凹角をたどるようになり、それと共にクラックが次第に細くなってくる。最上部
はハンドホールドに乏しく、悪い。いったん、テラスへ出て、石垣との境を抜ける。
3. 三段フレイク(15m、5.10a )
凹角の奥に走るハンドクラックを5m程登った後、真上のフレイク状のフィンガークラックをたどる。上
部はハングに頭を押さえられ気味となるが、右へカンテを越えて、強引にクラックへ移る。ここが核心
部。最後はフィンガークラックとなる。一部フレイクが剥がれそうで気持ちが悪い。
4. オイスター・ハング(大ハング左端の凹角)(15m、5.11a)
取り付きのハング(1.5m)越えが最初のポイント。滑りやすい凹角をたどると、ハングにぶつかるの
で、クラック伝いに左へ抜け、凹角を登る。ハングに頭を押さえつけられながら指先のみが掛かるアン
ダーホールドでのトラバースはスリル満点。快適な難ルート。
5. ブロー・オブ・ポセイドン(18m、5.12?)
3m程も水平に張りだしたハングの真ん中を走るハンドサイズクラック。完全にぶら下がった状態でク
ラックをたどる。ハング出口が悪い。鬼岳でのコンペ帰りに九州内ではそうそうたるメンバーがトライ
したが、いずれも敗退する中、まだ高校生であった小山田氏のみは、みごとハングを乗り切った。当
時、すでに実力は、九州トップクラスであるという事を見せ付けた登攀であった。上部は右のクラック
に移り、楽になる。私には、グレーディング不可能。
6. ラギング・ウエイブス(18m、5.10a)
ブロー・オブ・ポセイドンと同じ形状だが、こちらは、地面から直接ハング上のクラックへ手が届くの
で腕力を効かせて、強引にクラックへ入り込む。このハングの乗り越しがポイントとなる。身長が低い
と、クラックへ手が届かないかも知れない。その場合、困難さは、一気に上がる。登るに従って、ク
ラックは細くなり、フィンガーサイズと変わる。
7. ハイ・タイド(8m、5.7)
下部はハンドサイズのクラックで、入り口が嫌らしい。登るに従ってフィンガーサイズとなる。横断バ
ンドが終了点となり、上部まで抜けてはいない。満ち潮に追い立てられる様にして登ったために、この
名がついた。
8. サンド・ビーチ(18m、5.10b)
容易なハンドクラックを10mでぬけると、のっぺりしたフェイスに突き当たる。利きの甘いフィンガー
クラックをたどり、厳しいスラブへ踏み出す。フットホールドは見つかるが、ハンドホールドに乏し
く、緊張する。最上部は凹角に入って楽になる。
9. バックツー・ジ・オーシャン(20m、5.9)
容易な凹角を左上すると、オーバーハングに突き当たる。これをクラック伝いに越える。ハンドホール
ドがしっかりしているので、見た目ほどの事はない。上部クラックは両手・両足が入る教科書的ハンド
クラック。最上部はフィンガーサイズとなる。
10. エブ・タイド(20m、5.8)
ホールドの多いワイドクラックを登り、10mでバンドへ立つ。さらにワイドクラックをたどる。一番
やっかいなサイズだが、ホールドがしっかりしているので難しくはない。
11. ラスト・オブ・ホリディ(20m、5.10b)
下部はホールドの多いワイドクラックを10m登り、一旦、テラスへ出る。ここから、フレイク状のフィ
ンガークラックを伝って登る。上部で左へカーブしてくるために、体勢の保持が難しくなり、フット
ホールドも不足してくる。クリーニングすれば、少し易しくなるかも知れない。
シークリフ
シークリフ正面
シークリフ全景図
岩場概説
鬼岳を過ぎ、国道269号線を更に南下していくと、立神公園から7.9キロの所で、「浮津洞門」に出くわ
す。前後に、似たような名称のトンネルが出てくるので注意。岩場はトンネルのすぐ横側に波打ち際まで切れ落ちる。最大高度差は18m、幅は50m程度であろう。「さざ波エリア」とほぼ同時期、同じ地域で「シークリフ」と名付けられた岩場が西郷によって発見され、数本のラインが引かれた。その「シークリフ」がこの岩壁を指すのだろうと思われるが、当時の記録を見ても、記述内容が混乱しており、断定はできない。一応、この岩場を「シークリフ」と呼んでおこう。
見た感じは、まとまった面白そうな岩壁である。しかし、ラインを設定しようとすると、色々と問題が出てくる。岩壁の右半分にハンドクラックが入っているが、取り付くには海の中からになってしまう。中央部のラインは、頂上まで続いていない。左側の部分にもクラックが数本入っているが、10m程度、技術的にも興味は薄い。また、余りにも道路に近く、岩登りをしていると、クレームが付きかねない。この岩場を見付けた西郷の努力は買うものの、すぐ近くにはさざ波エリアが存在するので、影が薄くなってしまう感がいなめない。解説は省くが、一応、岩場の写真、概念図だけは載せておこう。