本富岳概説
本富岳は、海岸線よりその全貌が望まれる為に、最も目立つ存在であるし、アプローチが短いせいもあって、屋久島では最も多くのクライマーを迎えている。中心をなす岩壁は南壁で、高度差は350m、幅500mに及ぶ。この部分にフリー、人工のライン数本が引かれた。南壁は、右半分の一気に切れ落ちた華々しい部分、正面壁と、左側のややブッシュが混じる中央壁の二つに分けられる。
正面壁左端の凹角をたどる「福岡山の会ルート」は人工とフリーのミックスした好ルートである。このルートをフリー化した「水の山」は、日本最難のマルチピッチルートと言われる。宮崎登攀クラブと鹿児島登攀クラブによって全ピッチフリーのラインが引かれたが、上部岩壁はその右端をかすめる様に登るためにいくぶんすっきりしない恨みがある。下部スラブの左側を直上する「滑り台」というラインが引かれたものの、これは上部スラブに突き当たった所が終了点となっており、頂上に達する事はできない。
中央壁右寄りに引かれた「屋久島フリーウェェェイ」は全ピッチフリーの近代的なルートである。現在のところ屋久島で最も快適なルートと言える。屋久島フリーウェイの右をたどる「デイドリーム」は困難なフリールートである。さらに、左寄りに、凹角、スラブを抜けるライン「庵ルート」が開拓された。困難なピッチを含むルートであるが、草付きが多いのが難点とされる。
本富岳における最初のルートである中央稜、さらに中央稜側壁、西壁、東稜、「京都府立大ルート」、西稜、南西稜および西壁下部ルンゼ(南西稜の基部に入るルンゼ)等は現代的ルートとは言えない。
本富岳の右に伸びる銅淵川をたどる「ミルキーウェイ」は20ピッチを越えるロングルートである。銅淵川上流左岸に200 m程の白いスラブ(銅淵川奧壁と銅淵川左スラブ)が見られる。ここに2本のルートがトレースされている。さらに、本富岳の左に伸びる二又川右俣右岸スラブもその中央がトレースされた。鯛之川スラブ、二又川右俣右岸スラブを含め、ベースは原と尾之間を結ぶ林道が銅淵川と交差する地点(旧本富岳正面登山路入り口から尾之間側へ200 m程)が適当であろう。このすぐ横に石垣を組んだ造成地がある。私達は所有者からこの平坦地にテントを張る許可を得ているのでもっぱらここを使用している。造成地までの道筋は鯛之川千尋滝スラブの項を参照のこと。
その他の場所にテントを張ると、地元から苦情を受ける事が多い。別に迷惑を掛けているわけでもないのに世知辛い世の中になったものである。もっとも、ここは下界に近いから、原、尾之間付近の宿泊施設を利用する方が面倒が無くて良いのだろう。
本富岳南壁ルート図
ルート解説
銅淵川奥壁「フィッシャーマン」(270 m、A1、5.9、所要3時間)
アプローチが長い上に、草付きがあって、二又川スラブよりは質が落ちる。岩質は良好で、初心者向きのルートである。旧本富岳正面登山道を40分ほど登った辺りから下り気味に谷に降りていくと銅淵川に着き、大滝の下に出る。銅淵川大滝を右から捲いて、滝上に出る。そのまま沢筋をつめ、15 m程の滝を2つ越えると、本流は直角に左へ曲がる。北西に伸びる小沢をつめるとすぐに、奥壁の下に出る。林道から2時間ほど。スラブの基部をルンゼ伝いに20 m程左上した地点が取り付きとなる。
1ピッチ(40 m、5.9、ボルト5)
ホールドの乏しいスラブを右上し、10 m登った所から左上にラインを取る。ここからの10 mはホール
ドが少なく不安定な登りが続く。後半は楽になり、傾斜したバンドでピッチを切る。
2ピッチ(40 m、5.8、ボルト3)
左の白い岩に移り、これを越えるといったん草付きに入る。ススキをかき分けて上に出ると、第一ス
テップを越えたことになる。ここから右上し、幅20 ㎝のバンドでピッチを切る。
3ピッチ(30 m、5.7、A0、ボルト4)
右上し、第二ステップに突き当たった所でボルト2本を使用して被り気味の2mの壁を越える。この後
は、左上にラインを取り、このルート中唯一の安定した草付きテラスに出る。
4ピッチ(40 m、5.9、A1、ボルト6)
スラブを5m直上し、いったん帯状に広がる草付きに入る。これを5mで抜けて、白い小スラブに移
り、第三ステップの基部に沿って左上する。再び草付きに入った所からボルト3本を使用して4mの被っ たステップを越えると急なスラブに出る。右上にスラブを登り、不明瞭な凹角に達すると右の壁に確実な ホールドが続いている。
5ピッチ(40 m、5.6、ボルト1)
今までと比べると傾斜が緩み楽になる。固いスラブを長石の結晶を拾いながら直上する。
6ピッチ(40 m、5.6、ボルト1)
傾斜の落ちたスラブを左上する。
7ピッチ(40 m、5.6、ボルト1)
1m程の第四ステップの下を左にトラバース気味にたどり、ステップの端を回り込むように上がると登
攀終了点に達する。
登ったラインをアプザイレンで下降する。
フイシャーマン・ルート図
銅縁川左スラブ「黒稜会ルート」(100m、4ピッチ、5.7、所要2時間)
銅淵川奥壁の左に展開する白いスラブの左端を登るライン。海岸道路から見たときには奥壁と左スラブ
は判別しがたいが、左スラブは直接銅淵川本流へ面しており、奥壁とははっきりと区別される。わざわ
ざ登るほどの部分とも思われないが、右方白ルンゼを登ったときに、ラインを間違えてこのスラブを越
えた。銅淵川本流をたどると、いったん狭い小ゴルジュ状となる。これを抜けると谷は明るく開け、左
岸に白く左スラブが落ち込んでくる。このスラブの左端を登るが、ルートははっきりしない。
2ピッチ(25m、5.6)
長石の結晶が突き出たスラブを左へ登り、テラスへ出る。
3ピッチ(30m、5.7)
一旦、左へ降り、スラブへ取り付く。上部に伸びる草付き目がけて登り、潅木でピッチを切る。
4ピッチ(25m、5.6)
草付きとの境目にそってスラブを登る。潅木帯に入り、登攀終了。ここから、薮こぎ1時間で登山路に
出る。更に、30分で本富岳頂上着。
銅淵川大滝、右方白ルンゼ、東壁、北東壁をつないだ高度差430 m、22ピッチの長さを誇る超ロング
ルートである。途中で灌木帯や濡れた嫌な滝が出てくるが、これだけの長さとなると、それも仕方ある
まい。各ピッチのボルトの数は正確なものではない。旧本富岳正面登山道を40分ほど登った辺りから下
り気味に谷に降りていくと銅淵川に着き、大滝の下に出る。林道から1時間ほど。
1ピッチ(45m、5.9、 ボルト4)
大滝の中央に茂る草付きの右に入る小凹角を10m登り、ボルトから左へトラバースして、草付きの上に
出る。スラブを左上し、上部に広がるハングから左へ落ちるカンテ状の下へ出る。
2ピッチ(45m、5.10b、 ボルト10)
カンテを左へ回り込み、つるつるの悪いスラブを20mたどり、ついで右上気味にルートを取ると、帯状
の垂壁に突き当たる。3mの草付きの凹角を越え、悪い5mの壁を登ると安定したバンドへ出る。技術的
にはこのルートの核心部である。
3ピッチ(20m、5.7、 ボルト2)
斜上するバンドを右へ伝い、終点からスラブを右上する。草付きの小テラスへ出る。
4ピッチ(40m、5.8、 ボルト3)
スラブを直上。灌木帯の下の斜面でピッチを切る。
5ピッチ(10m、5.9、 ボルト1)
悪いスラブを5m登り、木の生えた凹角を越えるとテラスに出る。
6ピッチ(40m、5.8、 ボルト6)
スラブを5m登るとオーバーハングに突き当たるので、右へトラバースし、ハングを回り込んで、スラブ
を詰め、樹林帯に入る。
これで、大滝の登攀は終了する。頭上の岩を右から巻いて、左へトラバースすると、銅淵川の流れに
出る。ここから、ほぼ水平に左へ樹林帯を70m程たどると、右方白ルンゼの取りつきに出る。
7ピッチ(20m、5.5)
岩の廊下をたどり、滝の下でピッチを切る。
8ピッチ(40m、5.9、 ボルト5)
灌木と草付きの目立つ滝(20m)の中央を登るが、苔で滑っており、スリップしやすくて気持ちが悪
い。水が流れている事がおおく、そのときは、極端に悪くなる可能性がある。傾斜の落ちた沢筋の岩盤
をたどり、傾斜が増す直前でピッチを切る。
9ピッチ(25m、5.5)
ブッシュの中を伸びる凹角を登り広いテラスへ出る。上部が明るく開け、ここからが右方白ルンゼの核
心部である。
10ピッチ(25m、5.7)
斜瀑の右側のスラブを登り、安定したテラスへ出る。
11ピッチ(30m、5.8、ボルト1)
スラブの右側を30m登り、右へ出ると草付きのテラスへ達する。
12ピッチ(40m、5.9、ボルト1)
テラスから左の悪いスラブをトラバースして、スズ竹の交じった凹角に入り、これを詰める。
13ピッチ(40m、5.8、 ボルト1)
高さ10mの長方形の壁を越えて、左側の岩壁の裾にそってものすごい灌木帯をつめ、チムニーの下へ出
る。
14ピッチ(40m、5.9)
奮闘的な登りを要求されるチムニー(15m)を越えて、左の岩壁の下にそって、スズ竹の交じった灌木
帯をたどる。
15ピッチ(40m)
そのまま15m程登ると一旦、岩の広場、ジャンプ台に出る。上部に広がる東壁の右端をなす急なスラブ
を目がけ傾斜の緩い岩盤をたどる。
16ピッチ(30m、5.9、 ボルト8)
6mのスラブを越えると安定したバンドに出る。ここから急に傾斜が増し、正長石の結晶を拾いながら
20m程登り、小テラスへ達する。
17ピッチ(40m、5.9、 ボルト8)
テラスから右へ6〜7mトラバースし、垂壁を回り込んでからスラブを右上。垂壁に突き当たった所から
右へトラバースして灌木帯上部を走るスズ竹のバンドに出る。ここが北東壁の取り付きである。
18ピッチ(40m、5.7、ボルト1)
バンドの左端より7〜8m右から、フェイス(7m)を越え、傾斜の緩いスラブを右へトラバースしてい
くと、不安定なビレイポイントに着く。ここは、元は、スズ竹のテラスだったが、それが根こそぎ落ち
てしまっている。
19ピッチ(30m、5.6)
頭上のブッシュの左側のスラブを登り、ブッシュ上を右へトラバース。不安定なビレイポイントに着
く。ここもテラスがなくなってしまった所である。
20ピッチ(40m、5.8、ボルト6)
右へ出て、スラブを直上。上のブッシュ帯の下を右へトラバースし、右に伸びるスラブへ出る。これを
たどり、バンドに達する。
21ピッチ(30m、5.6)
容易なスラブを直上。傾斜が増す直前でピッチを切る。
22ピッチ(20m、5.8)
右側の左上凹角を登り、フェイスをさらに左上する。灌木帯に入り、登攀は終了する。
左上へブッシュをこぐと、東稜の上部へ出て、登攀終了点から15分程で、意外と簡単に山頂に飛び出
す。
ミルキーウエイ・ルート図
東稜
東稜を末端から登るラインだが、上部は傾斜が緩く、また下部ではブッシュが多い。ラインがはっきりしないものの、現代にも通用するルートとは思われない。
正面壁「鹿児島登攀倶楽部ルート」(345m、10ピッチ、5.10d、所要4時間)
正面壁右端を登るルートである。アプローチは「滑り台」の項を参照。正面壁下を右へ下っていくと、灌木帯の間に伸びる白いスラブにボルトが連打してあるのが見える。このボルトに沿って難しいスラブを登る。3ピッチで傾斜が落ち、緩傾斜帯(ステージ)に出る。緩傾斜の部分を4ピッチ登って上部スラブ右端に突き当った所から右へトラバースし、灌木帯を1ピッチ登った後、悪いスラブを越える。1ピッチで傾斜が落ち、さらに1ピッチで東稜に出る。
正面壁「宮崎登攀倶楽部ルート」(360m?、5.10d、所要4時間?)
下部スラブの左側にすっきりしたスラブが伸び、その右左には灌木帯が這い上がっている。左の灌木帯には「京都府立大学ルート」、「福岡山の会ルート」が取られており、右の灌木帯には「清水RCCルート」が取られている。このスラブの右寄りを直上する。スラブの途中にリングボルトが残されているが、取り付きが分かりにくい。上部スラブ下の緩傾斜帯へ出たところから右へトラバースして、上部スラブの右端にある悪いスラブを登る。途中で「鹿児島登攀倶楽部ルート」と交差する形になり、ラインがはっきりしないかもしれない。アプローチは「滑り台」の項を参照。
正面壁下部スラブ「滑り台」(160 m、5ピッチ、5.8、所要2時間)
正面壁下部スラブの最もすっきりした部分にまっすぐ引かれたラインであるが、残念なことに下部スラブのみで終了してしまい、頂上まで抜けてはいない。技術的には鯛之川千尋滝スラブと同じくらいの難度である。しかし表面の風化が進んでいて、ホールドが欠けることがある。この上部に頂上まで抜けることができれば素晴らしいラインとなろうが、現在では中途半端な感じがする。銅淵川横の造成地から林道を100 mほど尾之間の方に行ったところに(電柱番号322と323との間)山に向かう踏み跡がある。これを伝えば、1時間ほどで「屋久島フリーウエイ」の取り付きに出る。ここから、右へ5分も歩けば、正面壁の下へ着く。
1ピッチ(30 m、5.8)
下部スラブ左側の末端より取り付く。上部フェイス基部のハング下にある緑の潅木テラス目がけ一直線
に登るのでルートは分かりやすい。先ずつるつるの部分を10 m直上。ホールドの細かいスラブを登りバ
ンドへ出てピッチを切る。
2ピッチ(25 m、5.8)
バンドの上は傾斜が増し悪い。おまけにホールドが薄く剥げることがあるので恐ろしい。8 m程登れば
楽になり、後は問題ない。
3ピッチ(25 m、5.7)
潅木帯に挟まれたスラブのやや右よりにラインを取る。
4ピッチ(40 m、5.9)
スラブを直上。2つの草付きの間を登り、安定したテラスに出る。
5ピッチ(40 m、5.6)
左へ出て、クラックを登り草付きのテラスに出る。さらに右上のテラスに登った後、終了点のテラス目
がけ右にトラバースし終了。トラバースはやや脆いので注意。
終了点からはアプザイレンで下降する。
正面壁「京都府立大学ルート」(300m、Ⅳ)
正面壁の初登ルートであるが、ブッシュが多く現代に通用するルートではない。下部スラブを「福岡山の会ルート」と同じラインで登り、上部スラブの下の緩傾斜部分の樹林帯をザイルトラバースを交えて右へ伝う。上部スラブ右端の急な灌木帯を登って、東稜上に出る。
正面壁「FYKルート」(273m、11ピッチ、A2、Ⅴ、所要5時間)
正面壁と中央壁がぶつかるところが凹角をなして上部へ伸びる。この凹角をたどるラインであって、下部は灌木がうるさいが、上部はすっきりした登攀が楽しめる。一時、ボルトの痛みが目立ったが、その後、このルートの核心部を含んだ所が、「水の山」としてフリー化された。従って、「水の山」を人工登攀で登る形となる。凹角をぬけた上部から左へトラバースして樹林帯へ逃げ、これをたどって東稜上部へ抜ける。
1〜4ピッチ(120m、ブッシュ、一部Ⅳ)
取り付きは、下部スラブの左端をなす灌木帯であり、途中岩が露出した部分ののっこしが意外と嫌らし
い。4ピッチでチムニー状の凹角の下へ着く。これから核心部が始まる。
5ピッチ(20m、A2)
人工登攀でかぶり気味のジエードルを登り、小ハングを越えて草付きの小テラスに出る。
6ピッチ(40m、A2)
更に、垂直の岩溝に沿って人工登攀を交え35m登り、ハング下を右へ5mトラバースしてテラスへ達す
る。
7ピッチ(30m、A2)
2つのハングの間を人工登攀で登り、ブッシュ帯へ入る。更に、岩溝に沿って人工登攀を交えながら右
上し、ブッシュへ入る。
8ピッチ(30m、A1)
スラブを5m人工登攀によって左上し、草付きをたどって三角ハング下のブッシュテラスへ出る。更にハ ング下のスラブを8m左上し、再び草付きへ入る。ハング横のテラスへ出て、ピッチを区切る。
9ピッチ(30m、Ⅳ)
上部がかぶった草付きのバンドを腹ばいになって左へ30mトラバースし、中央の大灌木帯に入る。ここ
で実質的な登攀は終了する。
この後は、150m程灌木帯をつめ、東稜上部へ出る。
FYKルート・ルート図
正面壁「水の山」(316m、10ピッチ、5.12c、所要10時間)
「福岡山の会ルート」をフリー化したラインとも言えるが、下部、上部はオリジナルなライン取りがさ
れている。5.12台が3ピッチ連続し、日本では最も難しいマルチピッチのルートの1本だと見なされる。
1ピッチ(50m、5.8)
下部スラブ左端の灌木帯と「滑り台」との間の弓状フレークからスラブを直上し、レッジヘ達する。
2ピッチ(30m、5.10c)
さらにスラブをまっすぐ上り詰める。中間ピンは2本しか打たれていない。上部スラブ基部の緩傾斜帯
へ達する。
3ピッチ(30m、5.12c)
ここから核心部、上部スラブの登攀となる。凄まじい迫力を見せるかぶったジェードルに入り、浅いク
ラックからチムニーを抜ける。
4ピッチ(40m、5.12b)
垂直の凹角を抜けて、スラブをたどる。途中にボルダームーブが出てくる。
5ピッチ(15m、5.12b)
「福岡山の会」ルートは草付きを右上するが、さらに右のハングをダイレクトに乗り越す。長石の結晶
を利用したキャンパシングが出てくるのだが、この高度では恐ろしいとしか言いようがないだろう。
6ピッチ(22m、5.11b)
草付き混じりの溝を左上してテラスへ出る。
7ピッチ(26m、5.10c)
スラブから草付き混じりの部分を左上し、三角ハング下のブッシュテラスへ出る。更にハング下を左へ
トラバースしてハング横のテラスへ出る。ここまでが、「福岡山の会ルート」のフリー化ライン。
8ピッチ(28m、5.11c)
急傾斜のスラブを、遠いピンに耐えながら直上する。初登者の記述によれば「奇跡的にホールドがつな
がっている」らしい。
9ピッチ(50m、5.10c)
広大なスラブを上り詰める。
10ピッチ(20m、5.4)
帯状のハングを左から巻き、傾斜の落ちたスラブを右上する。灌木帯に入り登攀を終了する。右へ灌木
帯をたどると、東稜に達する。
水の山・ルート図
中央壁デイドリーム(250m、7ピッチ、5.11d、所要6時間)
「屋久島フリーウェイ」の右側をたどる難ルート。核心部は露出感の強いカンテ状を登っており、高度感とあいまって、相当に怖いだろう。「水の山」とともに、一流クライマーの実力を見せたルートである。一部、「黒稜会ルート」に重なっているような気がする。途中で、樹林帯に入ってしまい、頂上まで続いていないのが惜しまれる。
1ピッチ(25m、5.10c)
三角岩右側のスラブにボルトが連打されている。これに沿って登る。小さいがかっちりとしたホールド
が続いている。
2ピッチ(35m、5.11c)
凹角を右上し、垂壁を越えると核心のスラブの下に出る。
3ピッチ(40m、5.11a)
出だしから細かいフェイスを左上し、凹角に入る。凹角が終わったら、右上し、垂壁からスラブを越え
る。
4ピッチ(30m、5.11d)
垂壁からハングが一番張り出している部分を越える。「屋久島フリーウェイ」から見ると、露出感のあ
る垂直なカンテ状の部分にボルトの列が見られる。右から登ると、5.11a。草付きを登り、快適なテラス
へ出る。
5ピッチ(40m、5.11b)
階段状の岩を登り、一旦テラスに立つ。カンテからフェイスをトラバースして、フレークへ達す
る。弱点を突いて登り、最後のフェイスは左に巻く。
6ピッチ(40m、5.9)
草付きからスラブを登り、左上チムニーへ入り、これを越える。
7ピッチ(40m、5.5)
フェイスから凹角へ入り、スラブと草付きの間を登る。樹林帯に入って登攀を終える。
右へ30分ほど藪をこいで東稜へ出る。
デイドリーム・ルート図
中央壁「屋久島フリーウェイ」(390 m、12ピッチ、5.10d、所要6時間)
本富岳南壁の中央部を取り付きから頂上を目がけて登っていくラインであって、ロケイションが素晴らしい。全12ピッチのうち7ピッチが5.10台であり、かつては、屋久島では最も快適、かつ困難なルートであった。その後、「水の山」「デイドリーム」などの難ルートが開かれたので、最難とは言えなくなったが、最も快適なルートであることは間違いない。ほとんどブッシュもなく、快適なスラブクライミングが楽しめる。中央のクライマーの目を屋久島に向けるきっかけとなった好ルートである。アプローチは、「滑り台」の項を参照のこと。三角岩ははっきりしているので取り付きに迷うことはない。
1ピッチ(30 m、5.7、 ボルト1)
三角岩の左に入る草付の凹角をたどる。途中で4m程のチムニーの抜け口が草付で塞がれているために
手を焼くが、その他の部分は問題ない。三角岩の上は安定したテラスとなっている。なお、三角岩の正
面のスラブがフリーによって登られ、このラインを取ればさらに充実した内容となる(30 m,5.10d,
ボルト6)。しかし、ホールドが細かい上にピンの間隔が遠く、2ピンまでに墜落するとグランド
フォールの危険性がある。
2ピッチ(30 m、5.10d、ボルト10)
三角岩の左端から幅10㎝のバンドに這い上がる。ここから右斜め上に走る小凹角に入り、じりじりと高
度を上げる。いったん右のフェイスに出て一段上り、カンテを左に越えて凹角にもどる。凹角をたどる
と幅10㎝のビレイポイントにつく。ここは二人がかろうじてぶらさがれるだけのスペースしかない。
3ピッチ(30 m、5.10b、ボルト10)
つるつるの凹角を登ると少し傾斜が落ち、右の壁に走るフィンガークラックがホールドとして使えるよ
うになる。両足で左右の壁をつっぱりながら10 m程高度をかせぐ。オーバーハングに頭を抑えられた所
から凹角伝いに右よりにルートをとり、不安定なビレイポイントに達する。
4ピッチ(40 m、5.8、ボルト6)
右に出て、積み重なった白い岩塊を越え小テラスに達する。傾斜が少し緩くなり、やさしくなったフェ
イスを10 m 登り。小ハングの下を左に出ると草の付いたクラックが現れる。クラックをたどってブッ
シュ帯に入り、ブッシュの中の安定したテラスまで登る。
5ピッチ(25m、5.10a、ボルト2)
ブッシュの中を右手の壁の下に沿って15 m歩き、巨大な「ダイヤモンドハング」直下の7mのワイドク
ラックをレイバックで登る。ハングからしたたる滴のためクラック内部が湿っている事が多い。クラッ
クから「黒稜テラス」に這い上がり、左に5m歩くとビレイポイントが設置されている。繊細なムーブ
が続くなかで唯一パワーで解決するピッチ。
6ピッチ(30 m、5.9、ボルト8)
黒稜テラスの左端からカンテを回り込み容易な小フェイスを登ると一旦草付のテラスに出る。ここ
から「デルタハング」の直下を左にトラバースして行く。バンドが消えた所でフレークをアンダーホー
ルドにして左のレッジに立つ。そこから緩い草付きまじりのスラブを登り、バンド状のテラスに這い上
がる。
7ピッチ (40 m、5.10c、ボルト20)
レッジから左に出て、5m程左上し、草付の小レッジに立つ。ここから困難なスラブが始まる。特にテ
ラスから25 mから35 mの間の白いスラブでは非常に悪い体勢のバランスクライミングとなる。35mか
ら傾斜が緩くなり、安定したレッジのビレイポイントに至る。
8ピッチ(45 m、5.10a、ボルト4、ハーケン1)
ビレイポイントから左に2m廻り込んで凹角を右上する。凹角が尽きたらバンドを左にトラバースし、
小さな垂直の段差を乗り越えてスラブに入る。スラブの上部には右上するシンクラックが走っており、
これに沿って登る。クラックがリスになってホールドできなくなる所から再びスラブを直上してブッ
シュ帯に入り、立ち木でピッチを切る。
9ピッチ(25 m、5.10a、ボルト7)
わずかな窪みと正長石の結晶を手足の爪先で拾って行く。テラスから20m前後で最も難しくなり、その 先は傾斜が緩くなって外傾したレッジのビレイポイントに至る。
10ピッチ(35m、5.10c、ボルト25)
左へ出て、ボルト伝いに悪いスラブを直上。爪を立てるようなきわどい動作が連続する。途中で浮いて
いるフレイクがあって気味が悪い。上部は少し傾斜が落ちるが、ホールドが一段と小さくなるのでむし
ろ悪い感じを受ける。草付の小テラスに着く。
11ピッチ(30 m、5.7、ボルト1(他に古いリングボルト4))
草付の混じるスラブを右斜め上にたどる。この部分は「黒稜会ルート」と同じラインである。技術的に
は問題なく安定したテラスに出る。
12ピッチ(30 m、5.9、ボルト6)
スラブを直上する。ハンドホールドは乏しいが、傾斜が落ちるので難しくはない。1m程のステップを
越える部分が核心。潅木帯に入り、登攀を終了する。ここから50 m程登ると本富岳の頂上に達する。
屋久島フリーウェイ・ルート図
中央壁「庵ルート」(415m、10ピッチ、Ⅵ、A1、所要6時間)
「屋久島フリーウェイ」と中央稜の間に急峻なスラブが伸びる。このスラブと、左側の凹角、クラックを繋ぎ、最後は「屋久島フリーウェイ」と交差して頂上付近へ抜ける。困難なピッチを含むロングルートだ が、灌木が多いという欠点を持っている。
1ピッチ(40m、Ⅳ+、A1)
取り付きは「屋久島フリーウエイ」の左側40mの地点。草付きのクラックからスラブをフリーと人工の
ミックスで登り、小さいブッシュの間から短いフレークをレイバックで越えてテラスに出る。
2ピッチ(40m、Ⅴ+、A1)
スラブを人工登攀で直上し、最後はフリーに移る。短く左上して直上、草付きのテラスへ左から回り込
んで入る。
3ピッチ(20m、Ⅴ)
細いバンドを左に5mトラバースし、ついでスラブを下って浅い凹角へ入る。凹角を直上してボルト1
本でビレイ。
4ピッチ(45m、Ⅴ+)
草の詰まったクラックを登り、大ハングの右端の基部へ入り込み、ハングを右へ回り込んで草付きの点
在するコーナーをレイバックで登る。凹角の中でビレイ。
5ピッチ(45m、Ⅴ)
凹角をステミングによって直上する。途中で枯れ木と土が詰まった部分に突き当たるので、ブッシュの
左手を巻く。堆積物によって形成されたテラスでピッチを切る。
6ピッチ(50m、Ⅵ、A1)
凹角を3mほど登り、ついで凹角を右に出てスラブへ移る。ハンドクラックを登ると、草付きとなるの
で、その下から左のスラブへ移る。人工登攀を交えながら直上し、傾斜のついた草付きでビレイ。
7ピッチ(45m、Ⅵ、A1)
スラブをボルトとマイクロナッツの人工登攀でハング基部に向かって直上する。最後のハーケンからハ
ングの基部までのフリーは微妙。ハングの基部を左に回り込んで樹林帯に入る。ここから灌木帯を40m
ほど右上するとスラブの下へ出る。
8ピッチ(40m、Ⅴ-)
樹林に囲まれた20m程のスラブを右上し、再びブッシュを登るとスラブの末端へ出る。ここでいったん
ピッチを切り、スラブ左側のブッシュを伝うと広いスラブ帯の下へ出る。
9ピッチ(45m、Ⅳ+)
快適なスラブを右へトラバース気味に登る。段違いの下で確保。
10ピッチ(45m、Ⅳ+)
段違いを越し、コーナーを登る。コーナーから右の短いがホールドの無い岩を1ポイントの人工登攀で
越えるとスズ竹に入り、登攀は終了する。
庵ルート・ルート図
正面壁清水RCCルート
正面壁のど真ん中を直上していくラインであって、位置的には申し分ない。しかし、下部スラブは樹林帯を登り、上部スラブはボルトの連打で抜けている。ボルトの腐食によりこのルートは消滅した。
中央壁の右寄りに引かれたラインであり、頂上を目がけて登るという爽快さを持っている。しかし、全長の半分に近い灌木帯を持ち、すっきりしない点がある。また、ボルト連打の部分があるために、現在では再登不能となった。「屋久島フリーウェイ」は一部黒稜会ルートと重なっている。
中央稜
頂上から南へ延びる顕著な灌木に覆われた岩稜である。本富岳における初めてのラインであるが、ほとんど灌木登りに終始し、快適な岩登りが出来るとは思えない。
中央稜側壁
中央稜の左側の壁をたどるライン。草付きとチムニーを登るが、登攀価値がどの程度のものかは分からない。
西壁
垂直の傾斜を持つ西壁をボルト連打で登るライン。現在はボルトが腐食して登攀不能になった。
西稜
灌木が目立ち、快適な登攀になるとは思えない。上部の岩稜部分は短いものの、面白い感じがする。
南西稜
いくつかの岩峰を持つ藪尾根である。岩壁部分は、フリーが利くとは思えないし、これを避けようとすれば木登りになってしまう。岩壁部分に打たれたボルトはすでに消滅したはずである。
西壁下部ルンゼ
西尾根に突き上げる急峻なルンゼだが、詳しい様子は不明である。5ピッチ、途中にチョックストーンの滝を2つもつものの、それほど、困難なルートではない。