七五岳概説

 七五岳北面は高度差300 mに近い巨大な垂壁となって切れ落ち、凄まじい迫力を見せる。それは一枚の岩大きさからすると屋久島最大の岩壁と思われる。
 壁の右半分は下部にブッシュが入っているので、実際の登攀距離は三分の二弱となる。この部分にはボルトの連打で、「鹿児島経済大学ルート」、「福岡GCCルート」、「八代ドッペル登行会ルート」の3本が引かれた。しかし現在ではいずれも再登不能であろう。
 北壁の左半分、「大スラブ」と呼ばれる部分は全くブッシュを付けず、取り付きより頂上に向かって垂直にそそり立つ巨大な衝立を思わせるスラブの様子には圧倒されるばかりである。2004年に、鹿児島黒稜会パーティの手で東稜の右手をたどり、上部で北壁中央部に出て頂上まで抜けるライン「一夏の思い出」がトレースされた。このルートは高度感のある困難なトラバースを含む、迫力ある好ルートと言って良い。
 さらに左に寄った東稜はスラブ状カンテとなって一気に競り上がっていて素晴らしいフリーのラインを提供している。1975年の福岡GCCパーティによるこの完登は屋久島における最も輝かしい初登攀の一つと言える。初登時は全く中間ピンが打たれておらず、絶対に墜落が許されなかったが、その後、少ないながらもピンが設けられたので、初級のスラブルートとしてすすめられる物となった。
 東稜の取り付き点までのアプローチとしては、七五岳への一般登山路を頂上直下までたどり、東稜東側に入る灌木の混じった凹角(大凹角)を下るのが最も早い。途中で25 mのアップザイレンが2回出てくるものの、さほどの面倒もなく取り付きに立てる。
 また、西稜も鹿児島山岳会によりトレースされた。ここも下部はボルト連打の人工登攀である。その後、西稜に鹿児島黒稜会によってフリーのルートが開かれた。さらに、南壁にも清水RCCパーティにより1本のルートが引かれている。しかし、登攀距離が短く、わざわざ登りに来る程のものとは思えない。そのほかに、東稜の東側に高度差200 m程のスラブが露出しているのが目に付く。このスラブにはフリーのラインが引けそうな感じがする。ただし草付きがうるさい感じがして、快適なルートとなるかどうかははっきりしない。
 ベースとしては七五分れが優れている。複数のテントを張るスペースは十分にあるし、西側に100 m程降りた所に水場もある。ここから30分で七五岳頂上に至る。湯泊林道を車で上がる事ができれば、島に渡ったその日のうちにベース建設が可能である。ただし、林道下部に車止めの柵が設けてあるので、車を使用する場合は、事前に営林署の許可を得る必要がある。

                   ルート解説  

           
東稜(280m、7ピッチ、5.8、所要3時間)

 アプローチとしては、東稜東側の灌木の入った凹角を下降するのが最も短時間。アップザイレン2回を
交え、1時間強で取り付きへ立つ。ルートは一部草付きが混じるものの、快適なスラブ登りが続く。中間
支点が少なくスリップするとダメージが大きい。できるだけ右寄りにラインを取ると草付きに触れること
が少なくなる。

1ピッチ(40 m、5.6、ボルト1)
 スラブ末端より取りつく。傾斜のゆるいスラブを上り、20 mで30 ㎝のステップを越え、ブッシュ帯を
 かすめるように直上。最後に右上すると小テラス。

2ピッチ(40 m、5.7、ボルト2)
 スラブを直登。ブッシュに入ったり出たりしながらコンタクトラインを 上る。

3ピッチ(40 m、5.7、ボルト1)
 そのままブッシュとのコンタクトラインを直上。ブッシュ帯に入り、上端でビレイ。

4ピッチ(40 m、5.7、ボルト1)
 所々草付きの混じるスラブを直上。50㎝のハングを越える。ハングの下、及び乗り越しはホールドが
 乏しく悪い。このハングは左から捲くこともできる。

5ピッチ(40 m、5.7、ボルト1)
 所々草付きの混じるスラブを直上。

6ピッチ(40 m、5.7、ボルト2)
 白いスラブの真ん中を直登。50 ㎝のステップを越える。その後右上し、ブッシュ帯に入る。テラスは
 安定している。

7ピッチ(40 m、5.8、ボルト2)
 傾斜を増したスラブを直上。いったんブッシュ帯へ入り、これを抜けると、フェイスの下へ出る。8m
 のフェイスを越えブッシュ帯へ入り、登攀終了。

     

     

 

 

七五岳北壁「一夏の思い出」(300 m、8ピッチ、5.10a、所要3時間)

1ピッチ(45 m、5.9、ボルト4)
 東稜と同じ取り付き点から右のスラブにラインを取る。草付きの小テラスでピッチを切る。

2ピッチ(25 m、5.9、ボルト2)
 スラブを直上する。

3ピッチ(40 m、5.10a、ボルト6)
 東稜のラインの右側のスラブを登る。ホールドが小さく悪い。ビレイ点も不安定。

4ピッチ(40 m、5.9、ボルト5)
 スラブを15m 登った所の小テラスから帯状のハング目がけて右上にトラバースする。ハング下のバン
 ドでピッチを切る。

5ピッチ(50 m、5.10a、ボルト10)
 小ハングを越え、右にトラバースする。下がすっぱりと切れて高度感がすごい。ここでの墜落はやっか
 いな事になるので、ミスは許されない。50 mでバンドに出る

6ピッチ(40 m、5.10a、ボルト8)
 傾斜の強いスラブをほぼ直上する。微妙なバランスクライミングが続き、気が抜けない。40 mで灌木
 帯に入り、不安定なテラスでピッチを切る。

7ピッチ(15 m)
 灌木帯の下端を右にトラバースした後、小スラブを横切ってバンドに出る。

8ピッチ(45 m、5.7、ボルト3)
 右上の露岩を右上し、一旦草付きに入る。これを右上すると、凹角に出る。ここで、福岡GCCルート
 と交差する。この凹角を詰めて、右のスラブに移り、5 m程登れば広いテラスに出て登攀は終了する。


                      


西稜ブルースカイルート(240 m,6ピッチ,5.9、所要3時間)

 鹿児島山岳会によってボルト連打で登られたルートのフリー化ライン。変化に富み面白い岩稜登りが楽
 しめる。ワンポイントA1が混じっているが十分フリーでも登れるだろう。頂上への一般ルートから、
 南壁下をトラバースし、1時間程度で取り付きに出る。西稜末端の垂直なフェイスの右に伸びるスラブ
 状の岩稜にルートが取られている。

1ピッチ(40 m、5.6)
 快適なスラブ状のリッジを登る。バンド状のスタンスでピッチを切る。

2ピッチ(40 m、5.9、ボルト1)
 傾斜の増したスラブを直上。このルートの核心部。20 mで傾斜が落ち簡単になる。大きな杉の木でビ
 レイ。

3ピッチ(40 m、5.8、A1、ハーケン1)
 垂壁基部に沿ってブッシュ帯をたどり、A1ワンポイントによってフェイス(3m)を越える。草付き
 バンドを左へたどり広いテラスへ出る。ここで、鹿児島山岳会のルートと合流。

4ピッチ(40 m、5.7、ハーケン1、ボルト1)
 帯状のハングを左から捲き、快適なフェイスを登る。草付きのリッジに出てピッチを切る。

5ピッチ(40 m、5.7)
 草付きのリッジをたどり、広いテラスへ出る。正面のフェイスを越え、ピナクルに立つ。裏側の凹角を
 クライムダウンで10 m下降し、最後に4mアップザイレンし広いコルへ下りる。ここへは、南面の灌
 木帯から容易に達することができる。

6ピッチ(40 m、5.6、ボルト1)
 快適なリッジを登り、灌木帯に入ったところで登攀終了。

 80 m灌木帯を歩くと頂上直下で一般ルートに合流する。
       

     

 

北壁福岡GCCルート
 
 北壁の最も被った部分をダイレクトに頂上目がけていく爽快なラインだが、大部分があぶみ使用の人工
 登攀である。残置ボルトの腐食によりこのルートは消滅した。

 

北壁鹿児島経済大学ルート
 
 北壁の初登ルートである。このルートも大部分があぶみ使用の人工登攀であったために、残置ボルト
 の腐食によりこのルートは消滅した。

 

北壁八代ドッペル登行会ルート
 
 北壁右岩壁の初登ルートである。このルートも大部分があぶみ使用の人工登攀であったために、残置
 ボルトの腐食によりこのルートは消滅した。

 

西稜鹿児島山岳会ルート
 
 西稜は末端が100m程のフェイスとなって切れ落ちる。この部分をボルトの連打によって登り、リッジ
 上に出る。ここで、「ブルースカイ」が右から合流してくる。このルートも残置ボルトの腐食により
 消滅した。

 

南壁清水RCCルート
 
 南壁はそれほど大きな壁ではなく、またブッシュが混じっているために、まとまりに欠ける。説明は
 省く

             

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七五岳北壁概念図