永田岳北尾根概説

 三大岩壁の中でも最もスケールが大きいのは永田岳北尾根である。永田岳北尾根は永田川に向かって鋭く
切れ落ち、大小多くの岩壁を連ねている。そのうちでもが障子岳が中心をなす。障子岳は南西稜南壁、南西
壁、西壁、北壁、いずれの壁も10ピッチを越える登攀距離を持っていて、特に、南西壁、西壁は高度差
500mを越え、20ピッチ以上の長さを誇る。障子岳は屋久島でも最もアプローチの長い部類に入り、取り
付きまでに永田川を丸一日かけて遡行しなければならない。
 ネマチのクボ上流部にはいくつか高度差100 mを越すスラブが見られる。しかし、アプローチの長さが
原因となったためか本格的なアタックはなされていない。また、ネマチのクボから北尾根に向かって急峻
なルンゼが数本突き上げている。これらは何れも薮と転石がつまっているので、登攀価値がどれ程のもの
かははっきりしない。
 永田岳本峰周辺では少しスケールが落ちるものの永田岳 Ⅳ峰(ネマチ)北西壁、ローソク岩正面壁、
Ⅲ峰側壁等が登られた。これらはボルト連打の人工登攀が続くので、ボルトの腐食のために現在では登攀
不能になった可能性が高い。その中で、ネマチ北西壁はフリーの余地が大きく、新たな挑戦の余地を残し
ている。
 障子岳の岩壁を登る場合、ベースとしては「下の岩屋」が最も優れている。ただし、岩屋へ入るまでの
アプローチが長い。フェリーで屋久島に渡った場合には、その日は永田川下部でビバークし、翌日、昼近
くなって岩屋にたどり着くのが普通であろう。ただし、現在では踏み跡も消滅しているために、ルートが
分かりにくい。迷った場合は沢筋をつめた方が良いかも知れない。上タカヨケ沢を越えた所から、左岸の
段丘上に登り、疎林をつめていくと自然に岩屋の前に出る。この上で急に歩きにくくなるため、行き過ぎ
る事はないだろう。下山の場合はいくら早立ちしても、その日のフェリーには間に合わない。前日に、
下トリゴエ沢付近まであらかじめ下降しておく必要がある。
 ネマチのクボ上部の岩場を目指すなら、右谷との分岐にある「上の岩屋」ということになろう。あまり
居心地は良くないが3〜4名は宿泊可能である。しかし、ここは「下の岩屋」からさらに薮こぎ2時間程
度はかかる。こうなればむしろ、鹿の沢から右谷を下降する方が早い感じもする。本峰周辺の岩場を登る
場合は、鹿の沢の小屋が適当であろう。さらにⅣ峰の岩壁を目指すならば、Ⅲ峰の対岸に4人ほど泊まれ
る岩屋がある。もっとも、居心地はあまり良くない。
 障子岳は、北壁、西壁、南西壁、南壁と4つの巨大な岩壁を擁している。このうち、北壁はブッシュ帯
が広く壁を覆っていて、左中央部に食い込むルンゼを除いては、登攀価値が少ない。ルンゼは相当の困難
さが予想される。西壁には、「工藤-ゴア・ルート」、「遠い山」の2本のラインが引かれている。どちら
も20ピッチを越す長さを持ち、下降を考えると、ビバークの準備が必要となる。この2本はしっかりと、
ペツルタイプのボルトが埋めてある。南西壁には「西野ルート」が引かれ、これも21ピッチの長さを持つ。
ピンは、完全に消滅したが、易しいフリークライミングが主体のラインであって、再登は可能であろう。
南壁には岩壁中央部のルンゼを辿る「大鹿ルート」、巨大なオーバーハングを越える「大馬ルート」の2
本が開かれた。このうち、「大馬ルート」は人工登攀部分のボルトの腐食により登ることが出来ない。
「大鹿ルート」はフリークライミング主体だから、十分なピンを用意すれば、再登可能である。
 完全に人里から隔離された、障子岳周辺で事故を起こすと、致命的な事態を招きかねないので、登山者
として豊富な経験を積んだ上で、アタックすることが望ましい。

 

                    ルート解説

永田岳北尾根障子岳南西稜南西壁「西野ルート」(855 m、21ピッチ、Ⅴ A1、10時間)
(ルート解説は、初登時のもの。現在は全ての残置ピンが腐食のために、使用不能) 

 障子谷出合より永田川右岸に沿って1時間弱登ると、左手よりチムニー状の滝を上部に持つ小ルンゼが合
する。ここはイ谷出合より10分程下流にあたる。コンティニアスを交え倒木が詰ったこのルンゼを120 m
程登りオーバーハング滝の下へ達する。ここまではノーザイルでも十分であろう。

1ピッチ( 25 m、 Ⅳ、A1)
 しっかりとしたホールドの多い壁を10mたどりチムニーヘ入る。バックアンドフットで4 m登り右の壁
 に打たれたポルトにアブミをかけ乗越す。ついで凹角を登り切ると安定したテラスヘ出る。

2ピッチ(35 m、 Ⅳ、A1)
 滝の左側のチムニーを登りボルトにアブミをかけ一段上ると傾斜がおちる。そのままチムニー状の岩場
 を直上する。

3ピッチ(40 m、 Ⅳ、A1)
 ルンゼを5 m登り左の凹角へ移る。滑り易いホールドに注意しながら20m 登り、クラック伝いに左上す
 る。ザイルいっぱいで緩傾斜帯下端のテラスヘ着く。

4ピッチ(35 m、 Ⅰ)
 水の流れた跡にそい半分歩く様にしてザイルを伸ばす。

5ピッチ(40 m、Ⅱ)
 さらにスラブを直上する。2 m程の壁に突き当たった所で左に移りこれを越える。

6ピッチ(25m、 Ⅲ、 A0)
 右へバンド伝いに4 mトラバースし、一段上った所から連打されたボルトをホールドにしてスラブを登
 る。最後はフリクションを利かせて5 m上ると凹状部の下へ出る。

7ピッチ(40 m、Ⅲ)
 凹状部を8 m登り左へ走る斜上バンドヘ移る。所々、岩を越えながらザイルいっぱいまでバンドを辿る。

8ピッチ(40m、A1)
 これより中段スラブ帯にかかる。70度程の壁に連打されたボルトをアブミの掛け替えで40 m登りアブ
 ミに乗ってジッヘルする。これを快適と言うならば実に快適な人工登攀である。

9ピッチ(40 m、Ⅳ、A1)
 アブミを使用して3 m登り、スラブを右上へ8 m高度感のあるきわどいフリクションクライムで越え凹
 角へ入る。ザイルいっぱいで凹角を抜け安定したテラスへ出る。これで中段スラブ帯は終わる。

10ピッチ(20 m、Ⅱ)
 容易な階段伏の岩場を辿る。

11ピッチ(35 m、Ⅲ)
 壁の左より取り付きボルト2本をホールドに右上する。さらに細かいホールド伝いに3m登り右上へ走
 る容易な凹角へ入る。最後はチムニー状となり20 mで凹角を抜ける。

12ピッチ(30m、 Ⅲ)
 ボルト伝いに4 m登り、その後傾斜のおちたスラブを直上し広いバンドヘ出る。左手の濡れた凹角をレ
 イバック気味に10 mで安定したバンドヘ達する。

13ピッチ(40 m、Ⅴ)
 左の壁へ取り付きフレーク状のホールドを利用してクラックを10 m登る。ついでホールドの乏しい壁を
 10mフリクションを利かせながら越える。ここは相当に悪い。このルートの山場であるが、ボルト・ア イスハーケン1本がしっかりと打ってあるので安心感はある。あとは容易でザイルいっぱいまで登る。

14ピッチ(35m、 Ⅱ)
 そのまま水流の跡にそってルートを取る。

15ピッチ(25 m、 Ⅱ)
 さらにスラブを直上し急な岩壁基部を走るバンドヘ出る。バンドを左ヘトラバースし、一段上ると安定
 したテラスヘ着く。

16ピッチ(35 m、 Ⅳ、A1)
 凹角の奥に連打されたハーケン伝いにアブミを使用して15 mでテラスヘ出る。右の悪いクラックを登
 り、短かいフェイスより草付へ入る。この部分はかぶり気味で悪い。いったん壁から突き出にした大木で
 ジッヘルし、ついでブッシュ帯を15 m左上して頂上岩壁基部のテラスへ達する。これは単に確保点の移
 動である。

17ピッチ(40m、 Ⅲ)
 草付の凹状部を直上し、35 mで右へ出て大きな杉の木をピンにピッチを区切る。

18ピッチ、(35 m、 Ⅲ)
 草付交りの壁を左上し快適なスラブを左ヘトラバース気味に登り凹角へ入る。

19ピッチ(40 m、 Ⅲ)
 凹角を15 m登り悪い4 mのクラックをぬける。バンド伝いに左上しザイルいっぱいで外傾した小テラス
 へ達する。

20ピッチ(40 m、Ⅳ)
 左上へきわどいフリークライム5mで草付きの凹角へ入る。そのまま草付きを10 m登るとコルへ出る。
 縦に走る鱗状の岩をホールドにしてレイバック気味に20m 登りテラスへ着く。このピッチの後半から岩
 が脆くなるので注意を要する。

21ピッチ(40 m、Ⅳ)
 風化が進んだスラブを小さなはげ落ちそうなホールドを捨いながらジリジリと登り15 mで小テラスヘ立
 つ。さらに4 m右上ヘトラバース気味に登ったところからボルトを支点にして右へテンショントラバース
 4 mで浅いクラックヘ入る。クラックをザイルいっぱいまで登って小テラスヘ着く。ビレイピンはテラス
 の奥、草付の陰に打たれたアイスハーケンである。

 ここで実際上の登攀は終了する。しかしあとワンピッチ、スタッカットで行動すべきであろう。急なスズ
竹とシャクナゲの薮をこぎ20 mで傾斜がおちる。ザイルを解き5分も行くと大岩が二つ並んだ場所に出 る。このルートの終了点である。下降はイ谷側のスズ竹の斜面からブッシュ帯を途中3回のアプザイレンを交えて降りると上段スラブ帯の下端に着く。ここから右のブッシュに移りアップザイレン2回で緩傾斜帯へ立つ。スラブの右端を下り下部を左ヘトラバースして下部ルンゼ上部を横切り、潅木帯を左へと降りる(まっすぐ降りると行く手を壁にはばまれる)。そして最後に20 mのアップザイレンで永田川に下る。約3時間の下降である。

 

  

 

障子岳南西稜西壁「工藤 - ゴアルート」(855 m、22ピッチ、5.10a、A1、所要10時間)

 障子谷を渡り、30分ほど永田川右岸の迷路帯をつめていくと、前方に大きな白いスラブが開ける。倒木
の重なった谷を渡って対岸の斜面を登り、スラブ下端中央のテラス(ボルトあり)から取り付く。ここま
で、岩屋から1時間半内外。岩は硬く、快適なフリークライミングが楽しめる。14ピッチ目終了点の前衛
フェイスの頭から、向こう側のコル(風のコル)に下降し、そのままルンゼ(西壁左ルンゼ)を下ると、
下の岩屋から日帰りでの往復が可能である。風のコルから高度差150 m程下ると、左側に簡単に樹林帯に
抜けられる凹角が出てくる。これをたどって樹林帯に入り、後はひたすら下を目指す。最終点まで抜けたと
きは、下降に6時間程かかるので、ビバークの準備が必要となる。下降路は登ったルートをアプザイレンを
交えて下り、風のコルに出るのが最短。


1ピッチ(35 m、5.7、ボルト1)
 西壁左寄りにある安定したテラス右寄りから取りつく。急な7mの壁を越え、左に移って傾斜の落ちた凹
 状部を登って、一旦カンテ状に出る。草付き凹角の中でピッチを切る。

2ピッチ(40 m、5.6)
 草付きとスラブの境をたどり、途中で左へスラブを横切って凹角に入る。これをつめるとテラスに達する

3ピッチ(35 m、5.6)
 縦縞の様に草付きが交じるスラブを草付きのクラック伝いに登る。

4ピッチ(35 m、5.6)
 スラブをたどり、途中から左のスラブへ出て、これをつめると安定したテラスへ出る

5ピッチ(40 m、5.8、ボルト3)
 草付き混じりの壁を右へ登り、縦に伸びる悪いフェイスを5mつめると、小灌木混じりの急な草付きの下
 に出る。この7mの草付きを腕力で登り切ると、2m程の嫌なクラックとなる。クラックを抜けて右へト
 ラバースして広いテラスへ達する。前半部分の山場。

6ピッチ(40 m、5.6)
 正面に続く8mのフェイスを越えると緩傾斜帯へ出る。上部は登攀対象とはならず、左の階段状の壁をた
 どる。

7ピッチ(35 m、5.6)
 快適なスラブ、クラックとつなぎ、不安定なスタンスで1本のボルトにぶら下がる様にしてピッチを切る

8ピッチ(20m、5.6)
 上部は岩がのしかかってくるために、右にトラバース気味にルートを取り、20 m ほど登った所の小テラ
 スでピッチを切る。この辺りは、実に気分の良い部分である。

9ピッチ(35 m、5.7、ボルト1)
 ハング下を右に回り込み、草付きのクラックをたどる。次第に悪くなるので、ボルトを支点に、右へ8m
 のテンショントラバースして、クラックへ移る。クラックをつめて、不安定なジッヘルプンクトに達する

10ピッチ(30 m, 5.6)
 そのまま草付きのクラックをたどる。

11ピッチ(30 m、5.6)
 上部は薮が混じってくるので、適当な所から、右へ出て、草付きの斜面をトラバース気味に登り、大テラ
 スへ達する。

 ここで、一旦岩場が中断する。酷い灌木帯を左へたどり、コップ状の岩壁に取り囲まれた草の生えた安定
 した小広場に出る。

12ピッチ(40 m、5.8、 ボルト1)
 正面右に入る凹角を10 mたどり、バンド伝いにフェイスの中央に出る。2〜3歩登ると傾斜が落ち、容
 易となる。スラブをつめ、左の草付きに入り、ピッチを切る。

13ピッチ(40 m、5.10a、 ボルト3)
 左のスラブに移り、一番右側のクラックをたどる。次第に悪くなり、最後のスラブは厳しい。安定したテ
 ラスに出る。

14ピッチ(30 m、5.9、ボルト5)
 テラスから、左のスラブをたどり、ステップを越えると一旦小テラスに立つ。ここから悪いクラックをた
 どり、前衛フェイスの頭の灌木帯に飛び込む。これで、前衛フェイスの登攀は終了する。

 ここから一旦15 mのアップザイレンで狭い「風のコル」に降りる。

15ピッチ(25 m、5.8)
 正面に広がる壁の左側の傾斜の落ちた壁にラインが取られている。クラックをつなぐ様に登り、傾斜が落
 ちたスラブを右上して一塊の灌木の上でピッチを切る。長さ的には次のピッチも登れようが、ザイルの
 流れを考えるとここでピッチを切った方が無難であろう。

16ピッチ(10 m、A1、 ボルト4)
 2mほどのハングをボルト3本で越えて、一旦左へ不安定なトラバースを行い、一段登って右へ帰る。ボ
 ルトに乗って、上部の灌木帯に入る。

 ここから、30分程、薮の密集した尾根筋をたどると、頂上岩壁の下へ出る。

17ピッチ(30 m、5.8、 ボルト1)
 正面の15 m程の岩壁をバンド伝いに右上し、草付きの凹角に入り、これをつめる。酷い屋久笹の斜面に
 出て、ピッチを切る。さらに20 m程ブッシュ帯をつめると屋久笹の生えた傾斜の緩い凹状部の下に出る 
 ここで、白いスラブのラインと合流する。

18ピッチ(40 m、5.4)
 屋久笹の生えた凹状部をつめる。所々岩がでてくるものの、問題はない。

19ピッチ(40 m、5.7)
 さらに凹状部を詰めるが、岩壁部が多くなる。左上気味にラインを取る。

20ピッチ(45 m、5.7、 ボルト1)
 スラブをたどり、傾斜が増した辺りから途中から左の屋久笹帯に入り、これをつめるとコルに出る。

21ピッチ(25 m、5.7)
 鱗状のクラックをたどり、左上にルートを取ると、小コルに出る。このピッチから岩が風化されていて、
 脆くなるから注意を要する。

22ピッチ(45 m、5.8、 ボルト2)
 スラブを左上し、ついで右上する。20 m程登った地点よりボルトを支点にしてテンショントラバースし
 て右のクラックに入る。このクラックをつめると穴蔵の様な小テラスに出て、登攀は終了する。この後
 は、屋久笹の斜面となるが、傾斜が厳しいので、あと10 mほどはザイルを付けて行動すべきであろう。
 50 mほど酷い薮を漕ぐと大石が2つ並んだ登攀終了点に飛び出す。

 下降路は、登ったラインをアップザイレンで下り、風のコルから、左ルンゼを下るのが分かり易い。登攀
 時間正味10時間、下降は下の岩屋まで6時間。


  

 

障子岳南西稜西壁「遠い山」(900 m、25ピッチ、5.12a、所要2日間)

 西壁を登った後、さらに前障子岳へと続く屋久島最長のルートである。ラインははっきりしないものの、
「工藤 - ゴア・ルート」の右手を登った様に思われる。最難ピッチは5.12a に達し、アプローチ、登攀距離、
技術的困難さ、気象条件などから、簡単に取り付ける物ではない。登り切るためには、フリークライミング
の技術だけでなく、アルパインクライマーとしての力が必要とされる。開拓者はフリークライマーとして高
名な、飯山 — 遠藤ペアであり、中央クライマーの実力を見せ付けたルートと言えよう。風のコル手前で
「工藤 - ゴア・ルート」に合流し、頂上岩壁の頭へ達する。ここから、水平に藪尾根を150mほどつめ、前
障子岳西壁を2ピッチ登り、前障子岳に立つ。下降路は、登った所を風のコルまで下って、左ルンゼを下る
か、南西稜南壁をルンゼ伝いに下るかである。いずれも、5〜6回のアップザイレンが必要となる。登攀の
記録は「Rock and Snow」number 042 に記載されている。しかし、ラインの説明が省かれており、ルートファインディングには注意を要する。

             

永田岳北尾根Ⅳ峰北西壁「上之園ルート」(235 m、Ⅳ、A1、所要3時間)
(ルート解説は、初登時のもの。現在は全ての残置ピンが腐食のために、使用不能)

1ピッチ (40 m、Ⅲ、A1)
 取り付きは屋久笹の付いた一m程の顕著な帯状のハングから20m 程、沢を下ったほぼ壁の中央部である
 取り付きから2m程、直上し(ボルト1)ブッシュのバンドを4m左上して再び右にトラバースする。ル
 ートファインディングに目を凝らしながらA0を交えたフリーで登って行くと、やがてボルトの連打にな
 り、30㎝程の少ハングを越える。そのまま直上し、左から捲き込む様にして右のブッシュに入ると4m
 でテラスに着く。

2ピッチ(35 m、Ⅲ、A1)
 傾斜の緩いフェースをフリーで10 m程登るとボルトの列が現われる。そのまま直上し、頭上のブッシュ
 帯を左から捲き込み、-(草の影に見えにくいボルトが1本ある)- ブッシュ帯の上を右にトラバースす る。そして、2mの脆い壁を越すと(ボルト1)50㎝程のテラスに出る。

3ピッチ(35 m、Ⅳ、A1)
 テラスの左端から右上する草付きの凹角を3m登るとバンドに出る。其処から引っぱがれそうな感じのピ
 ナクル状の岩を登り、ボルト連打の人工に移る。小ハング下の人工テラスにてビレイ。

4ピッチ(40 m、 Ⅳ、A1 )
 小ハングを越え、更に人工で30 m直上し、スカイフック一回で小バンドに立つ。此処からブッシュを5
 m登った潅木でビレイ。

5ピッチ(20 m)
 ブッシュの中を15 m左上すると大きなテラスに出る。

6ピッチ(25 m、 Ⅳ)
 テラスから右上に走る外開きのチムニー(20 m)を登ると草付きの細長いテラスに出る。

7ピッチ(40 m、Ⅲ、A1)
 5mのフェイスをボルト2本、スカイフック1回で越え、スラブを右上へ細いホールドを拾いながら
 (ハーケン1)15 m登るとボルトに達する。このボルトを乗っ越すと、岩は風化したスラブとなり、脆
 いので適当な所で右のブッシュに入り、手ごろなシャクナゲを見つけてビレイ。

 実際の登攀はここで終了するが、シャクナゲの中をあと1ピッチザイルを伸ばした所がⅣ峰の頭である。
                                                        
         

  

                 永田岳北尾根4峰北西壁ルート図

              

障子岳南西稜南壁「大鹿ルート」

 永田岳山頂から障子岳南面を眺める時に、巨大な壁の中央に急峻なルンゼが食い入っているのが目に付 く。大鹿ルートはこのルンゼを忠実に辿るラインである。見た感じよりも易しく、実質的な登攀部分は5ピッチ程度となる。障子岳の岩壁に初めて引かれた本格的岩壁登攀ルートだが、現在では物足りない感じがする上に、ピンが完全に腐食してしまったので説明は省略する。

 

障子岳南西稜西壁「大馬ルート」

 上記ルンゼ上部に位置する巨大なオーバーハングを正面から越える豪快なルートであるが、ボルト連打の
人工登攀が続く。ここも、残置支点が全て腐食したため、ルートとしては消滅した。

 

ローソク岩正面壁「鹿児島経済大学ルート」

 上永田歩道から見るローソク岩は鋭く尖り、その名に恥じぬ秀麗な姿を見せる。特に北に面した岩壁は、
150mに渡って鋭く切れ落ち、屋久島の代表的景観の一つである。しかし、北面から見ると、意外と幅の広
い壁であって、この壁に、2本のラインが引かれている。鹿児島経済大学ルートは、この壁の初登ルート
である。しかし、ボルト連打の人工登攀であったために、支点の腐食により、ルートとしては消滅した。

 

ローソク岩正面壁「鹿児島山岳会ルート」

 鹿児島経済大学ルートの右側に引かれたライン。ここもボルト連打の人工登攀であったために、支点の腐
 食により、ルートとしては消滅した。

 

       前のページに戻る