車谷
車谷概説 車谷は背振山塊では最大の流域面積を持っている。多くの沢に分かれるので整理しておこう。「背振山の沢筋概説」で述べたが、背振山に向かう沢筋(左俣の右俣もしくは中俣の左俣)を本流とするか、矢筈峠に向かう沢筋(中俣の中俣、「川・花・こころ」では「車谷本谷」となっている)を本流とするか、悩ましい所である。車谷の入渓点である舟石橋の100m程西に位置する矢筈峠登山道に沿って北西へ向かって伸びる小沢が車谷右支流。舟石橋より本流に入り30分程で右より小富士谷が合する。さらに20分程で車谷右俣が合する。さらに20分程で二俣となり、右が車谷中俣、左が車谷左俣である。中俣に入ると、20分で中俣の右俣が合する。左の沢筋である中俣の中俣を辿ると10分で二俣となり、右が中俣の中俣で、矢筈峠へ向かう。左が中俣の左俣で背振山頂へ向かう。車谷左俣へ入ると5分で再び二俣となり、右が車谷左俣の右俣で背振山頂に向かう。左が車谷左俣の左俣で、907m峰に向かう。車谷本流域は溯行距離が長いだけに傾斜が緩く、滝の数が少ない為に溯行の対象としては物足りない。むしろ支流の方が登り甲斐がある。中俣の中俣添いに矢筈峠まで登山道が伸びている。
アプローチ 林道早良線を辿り、坊主川橋から5.6キロで車谷と交差する。もしくは、椎原集落経由。椎原バス停から100mほど板屋峠へ向かう車道を辿ると右へ道が分岐し、ここに椎原峠登山道への道標が立っている。この道に入り、2.1キロ道なりに走ると林道早良線に突き当たり(途中、離合できない部分が続くので、対向車があると酷い目に遭う。休日にこのコースを取るのは勧めない)、ここが矢筈峠登山道入り口となっている。矢筈峠登山口の左の大きな沢が車谷本流である。沢に掛かる舟石橋より入渓する。
a. 車谷中俣の中俣コース解説 C ランク
水量が多く、入り口は堂々たる風格である。入渓後、小ゴルジュ状となり、その上で谷筋が直角に左へ曲がる。行く手には10m斜瀑が豊富な水を落としている。左を越えると入渓後30分程で右より小富士谷(「川・花・こころ」で小富士谷と仮称されていた)が合する。本流溯行中は合流点に気づかずに通り過ぎてしまうだろう。さらに20分程で左に林道が接近し、右より車谷右俣が合流する。ここも合流点が分かりにくい。さらに20分程で二俣となる。どちらの沢筋も水量はほぼ同じ、どちらが本流とも決めがたい。左の沢筋が左俣である。右の車谷中俣を伝うと10分で林道と交差する。さらに10分で車谷中俣の右俣が合し更に10分で車谷中俣の左俣が合する。そのまま車谷中俣の中俣を詰めていくと矢筈峠へ至る。下流に出てくる10m斜瀑を除き滝らしい滝は出てこぬままに溯行が終了する。車谷中俣の右俣、車谷中俣の左俣も同様に目立つ滝は出てこない。ただし、車谷中俣の左俣は上流域が気持ちの良い部分であり、歩いて楽しい。最後に舗装道路に出るのが残念。どの沢筋も水量が多く長いのだけが取り柄。所要時間2~3時間。
車谷溯行図
車谷下部・小ゴルジュ状
車谷下部・10m斜瀑
車谷中俣の中俣・樋状8m
b. 車谷右支流コース解説 C ランク 上部でいくつかの滝が出てくるが、水流が少なく、迫力も無い。行く価値があるほどの沢とは思えない。入渓後すぐに矢筈峠登山路と分かれる。退屈な沢筋を40分程度辿ると、二俣となる。ここは水流の多い右の沢に入った。20分程で林道と交差する。この上はいったん水流が無くなってしまうが、我慢して登っていくと、水流が復活し5m滝が4つ連続して出てくる。最後の詰めが伐採のために荒れており、急傾斜で不安定。尾根筋に出た後、高みを目指して登って行くと30分程度で縦走路に出る。所要時間、舟石橋より2~3時間
車谷右支流5m滝1
c. 小富士谷コース解説 B ランク 規模、水量共に少なく、短いながらも、滝が多く車谷右俣とともに車谷中では最も興味の持てる沢である。舟石橋より本流を30分程詰めると、広い川に左右2状の3m滝が落ちる。この滝の下が小富士谷分岐。面倒ならば、矢筈峠への登山路を10分程登ると、小富士谷を横切るのでここから入渓する。間もなく出てくる8m滝は見応えがある。この後、小ゴルジュ状を越え、淡々と詰めていくと林道を横切る。ここからしばらく茨混じりの藪が酷くなり、歩きにくい。藪を避けるなら右岸を捲くのが良いようだ。藪が切れたところで沢筋に戻る。ここからが核心部で、入り口の4m滝を越えると、3段20m連瀑、10m斜瀑、6m滝などが連続する。全ての滝を直登するならば、登攀具が必要である。核心部を成す20m連瀑の上部は右の凹角状を辿る。結構悪いが途中の灌木で支点が取れる。実際上、ザイルが必要なのはこの部分だけ。最後は小富士のピーク周辺に出る。所要時間、小富士谷出会いより2~3時間。
小富士谷溯行図
小富士谷・8m滝
小富士谷・20m連瀑上部
小富士谷・10m斜瀑
d. 車谷右俣コース解説 B ランク 矢筈峠への登山路を辿り、小富士谷を横切った後、10分で車谷右俣を横切る。この地点より入渓。5m2段滝、4m階段状滝を越えると入渓後30分程で林道を横切る。さらに20分程で二俣となる。深く切れ込んだ右の沢(右俣の右俣)に入るとすぐに5m滝が行く手を阻む。ザイルを使用すべきだが、中間ピンが無いのでトップはフリーソロ状態、確実な登攀技術を要する。この後、3段20m滝、3段10m滝を始めとして滝が連続し、面白い溯行が楽しめる。最後は藪コギも無く唐人の舞近くの縦走路に飛び出す。二俣から真っ直ぐ上に伸びる左の沢(右俣の左俣)は滝の数、迫力の点で右俣の右俣に劣る。しかし、途中の30m斜瀑は気持ちの良い所であり、行く価値はある。入渓後15分程の所に位置する3m滝(写真参照)の上で、右俣の左俣は二つに分かれる。つい右に行きそうだが、ここは左の流れを登る。右に行くと早々に水流が無くなるので注意。最後のスズタケ帯が結構長い。右俣の右俣の所要時間:右俣出会いより2時間。右俣の左俣の所要時間:1.5時間程度。
車谷右俣の右俣・20m連瀑
車谷右俣の右俣・3段10m滝
車谷右俣の右俣・6m斜瀑
車谷右俣の左俣・3m滝
車谷右俣の左俣・30m斜瀑下部
車谷右俣の左俣・30m斜瀑上部
e. 車谷左俣コース解説 C ランク 舟石橋より忠実に沢筋を辿れば1〜1.5時間程度、矢筈峠への登山路を辿れば40〜50分で二俣へ出る。左俣へ入り、5分で二俣となる。右が車谷左俣の右俣、左が車谷左俣の左俣である。車谷左俣の右俣へ入り、何の変化も無い沢筋を詰めていくと、終了点近くになって自動車の残骸が転がっている。頂上付近の車道から転げ落ちた自動車が洪水でここまで流されてきたのだろう。水流の強さを思い知らされる。まさか、車谷という名称がこの自動車の残骸に由来するわけでもあるまいが、面白いものだ。すぐに20m斜瀑が出てくる。水量が少なく、下部は技術的には問題なく登ることが出来るが、上半最後の部分が悪い。ここも中間ピンが無いので、ザイル、ハーケンの持参が必要となる。水量が多いときは登攀不可能となるかも知れない。もっとも、滝の右岸に捲き道が付いているから簡単に捲ける。この沢筋を車谷の本流と見なす事も出来ようが、実質上、この滝だけしか出てこないのでは役不足の感がぬぐえない。自動車道に出て、溯行を終了する。車谷左俣の左俣も目立つ程の滝は出てこぬままに板屋峠から背振山に通じる登山路に飛び出す。最後が15m程の泥壁となっており、これが車谷左俣の左俣の目印。もっとも簡単に捲くことが出来る。二俣より所要時間2~3時間。
車谷左俣の右俣・車の残骸
車谷左俣の右俣・20m斜瀑
車谷左俣の左俣・6m滝
長野川
長野川概説 椎原川源流は長野川、八畝原川、荒谷川に分かれる。長野川は地図上では小さすぎて溯行する気にはなれなかったのだが、出かけてみると結構スケールの大きな滝が多く、思いがけない所に溯行価値のある沢が存在すると言うことを痛感させられた。登攀的要素を重く見て、Aランクとした。ただし、暗く渓谷美は全くない上に、水量が少なく藪が多いので、人によって評価が大きく変わるだろう。所要時間2時間。
アプローチ 椎原集落から板屋峠への県道136号線を進むと、椎原バス停より4.2 キロ、17カーブの手前で向かって右に林道早良線が分岐する。林道早良線に入り0.9キロ程で長野川と交差する。交差点付近には適当に駐車スペースがある。
長野川コース解説 A ランク 入り口から奥を覗くと、3m滝とその背後に堰堤が見え、これが目印となる。沢筋の左に入っている古いコンクリート舗装の車道を辿り、二つの堰堤を捲く。5分で沢に入り、堰堤を一つ捲く。20分程度平凡な沢筋を辿る。2m滝が出てくると、次々と登り甲斐のある滝、ナメが連続して緊張の溯行が続く。核心部はV字状に切れ込んでいるために、滝の捲きが不安定で嫌らしい。何れの滝も斜瀑だからむしろ全てを直登した方が楽だし、技術的にも問題ない。ただし岩が滑っておりスリップしやすいので初心者がいる場合はザイルが必要だろう。高度差が大きい滝が続くので滝登攀の迫力では、背振山塊北面随一と言える。核心部の最後をなす4m滝を抜けた後の源流部が結構長い。緩やかな流れをたどり、最後はスズタケをかき分けて稜線に出る。ここまで2時間程度、この後は稜線伝いに板屋峠への登山道を目指す。さらにスズタケをかき分けながら45分程度で907mピークにある電波塔に出る。すぐに車道だが、ここまで行くと入渓地点に戻るのが大変な事になる。この電波塔の5分程手前を板屋峠への登山道が通っているが、スズタケに覆われて判然としない上に、この登山道を横切る形になるので踏み跡を見つけるのが難しい。所々赤テープが巻かれているのでこれを頼りに運良く道を見つけることが出来れば40分程度で板屋峠へ降りる。このコースは長い上に分かりにくいのでむしろ最後の4m滝を越えた地点、もしくは稜線に出た所から八畝原川方面を強引に下る方が良いかも知れない。車谷方面に下った場合、茨混じりの藪コギとなって苦労させられる。
長野川、長野川左支流、八畝原川(板屋谷)、荒谷川溯行図
長野川・7m滝
長野川・20m樋状滝
長野川・20m斜瀑
長野川・10m斜瀑
長野川・20m2段滝
長野川左支流
長野川左支流概説 長野川と 八畝原川との間に入る沢である。下部で長野川と合流するので長野川左支流とする。長野川が結構登り甲斐があったので、二匹目を狙って溯行してみたが、ドジョウは居なかった。藪がうるさい上に、渓谷美、目立つ程の滝も無く、行くだけ無駄な小沢。所要時間1.5〜2時間。
アプローチ 林道早良線に入り0.8キロ程で長野川左支流と交差する。出合いの100m程手前に駐車スペースがある。
長野川左支流コース解説 C ランク 入り口から奥を覗くと、流れの右側に丸木小屋が見えるのでこれが目印となる。退屈な沢筋を1時間程度辿ると、10m滝が出てくるが、汚らしくて登る気にはなれない。左を簡単に捲ける。この上は何も無く、やがて樹林帯となるので、適当な所から尾根筋に出てこれを下る。もしくは登った沢筋を下る。登るよりも下山が大変な所。
八畝原川(板屋谷 )
八畝原川(板屋谷)概説 八畝原川は「川・花・こころ」では「板屋谷」と仮称されている。しかし、すぐ近くに「板屋川」が流れているので少々紛らわしいのではないだろうか。途中で右支流を分岐し、上部で右俣、左俣に分かれる。明るく開けた気持ちの良い沢だが、右俣の連続して出てくる5m斜瀑、8m滝が目立つ程度。所要時間2~3時間。
アプローチ 林道早良線に入り0.7キロ程で八畝原川と交差する。
八畝原川(板屋谷)コース解説 Bランク 2m滝が二つ出てくるだけ、変化の無い沢筋を詰めていくと、入渓後1時間半ほどで二俣に出る。ほぼ同じ水量だが本流は右の沢(右俣)であろう。入り口は2mの滝状。こちらに入り、しばらくすると5m斜瀑、8m滝が連続する。8m滝は迫力がある。真ん中をシャワークライムで抜けることが出来るが、結構悪い上にピンがない。左右を捲けるので、滝を直登するつもりならば上からトップロープを取る方が無難。この上の6m斜瀑を越えたところで沢筋は二つに分かれる。左の7m斜瀑を登った方が充実している。しばらく滝、ナメが続き、最後に気持ちの良いナメ30mが出てくる。尾根筋直下まで水流が消えず、ほとんど藪をこぐことも無く、板屋峠から背振山に通じる登山路に飛び出す。左俣は3〜4mの滝が4つほど出てくるだけ、変化に乏しい。さらに最後のスズタケコギも長く、右俣には劣る。右俣の終点近くで登山道に合する。ここから板屋峠まで30分程。後は車道を下り入渓点に戻る。
・八畝原川右支流コース解説 C ランク 入渓後1時間ほどで右から小沢が合流する。これが右支流。滝があるかもと思い溯行してみたが、15m階段状小斜瀑があるだけで、溯行価値は無い。尾根に出た後は、登った沢筋を下るのが一番簡単。所要時間合流点から1.5時間。
八畝原川右俣・8m滝
八畝原川右俣・7m斜瀑
八畝原川右俣・30mナメ
八畝原川右支流15m階段状小斜瀑
荒谷川
荒谷川概説 行政上は荒谷川が椎原川本流とされている。規模が小さく溯行する気にはなれなかったのだが、本流に敬意を表して溯行してみた。結構小滝が多く中間部の連瀑、ナメは気持ちの良い所なのでBランクを考えた。ただし、残念な事に藪が酷いのでcランクとした。行くなら藪コギ覚悟。所要時間3時間程度。
アプローチ 八畝原川を参照。林道早良線に入り0.1 キロ程で荒谷川と交差する。
荒谷川コース解説 Cランク 入渓点は水流の音が聞こえなければ沢筋が入っているとは思えない程の小ささである。入渓後堰堤が5つ連続して出てくる。藪が濃く捲きがいやらしい。最後の堰堤まで1時間弱(板屋峠への車道の23カーブから入渓すると最後の堰堤の上流に出てくるので、堰堤群を避けることが出来、溯行が楽になる)。最後の堰堤から20分程度で5m滝が出てきて、これからは5〜6mの斜瀑やナメが連続し結構充実している。しかし直瀑が少ないのが残念な所。さらに全体に茨混じりの藪が酷く、苦労させられる。最後は倒木が谷筋を埋めているために滝群が終わり、二俣になった辺りから左の尾根に逃げた方が良いだろう。藪とスズタケをこいで板屋峠から背振山に通じる登山路に飛び出す。ここから板屋峠まで20分程。
荒谷川・5m滝
荒谷川・6m滝
最後に
めぼしい沢筋は全て調査したつもりだが、結局「直登沢」は発見できなかった。「直登沢」を登って50年、その間に、北アルプス、屋久島を始め、いくらか沢登りの経験を積んだので、調査した範囲に「直登沢」が含まれていたとしても、当時ほどの困難性も面白さも感じられなかったのかも知れない。目的は達せられなくとも、次にどのような滝が出てくるのかと期待に胸を膨らませながらの溯行は、久しぶりに登山の原点を感じさせてくれた。