背振山の沢筋概説
坊主川よりも東の沢は、いずれも椎原川に注ぐ。これらの沢をまとめて、背振山の沢とする。椎原川の本流は「普通河川の指定」によれば荒谷川となっている。荒谷川は八畝原川(「川・花・こころ」では板屋谷と仮称されている)を合流させ、さらに長野川を合流させて椎原川と名称が変わる。椎原川は湯ノ野の東で車谷(公式には名前が無いようだ。ここでは登山者の間で用いられている車谷を使用する)を合わせ、更に湯ノ野の西で小爪川を合流させる。その後、北へ方向を変え、脇山と内野の境界で小笠木(おかさぎ)川が合流する。更に北西に方向を変えながら、大谷川、長尾川を合わせ、内野と早良との間で室見川に合流している。すなわち、長尾川から荒谷川の間を背振山の沢とする。車谷上流は幾つもの沢に分かれ、構成が複雑である。まず、北緯33度27分45秒、東経130度21分06秒で車谷に合する谷(「川・花・こころ」では鬼ヶ鼻谷と仮称されている)と、北緯33度27分20秒、東経130度21分07秒で車谷に合する椎原谷(椎原川と混同しやすいので適当な名称とは思えないが、登山者の間ではこのように呼ばれているようだ)を分岐し、車谷本流は更にいくつかの支流を分けながら、矢筈峠、背振山方面に突き上げる。車谷の本流をどれにするのかは難しい。沢の長さからいくと背振山に突き上げる沢筋(左俣の右俣、もしくは中俣の左俣)だが、合流点の水量等から、登山道が伸びている矢筈峠に向かう沢筋(中俣の中俣)を本流とする考えもあり、いくつかの資料にはそのように記載してある。規模の大きな小爪谷、車谷の本流域は平凡な歩きが続き、興味が薄い。むしろ両者とも支沢の方が登り甲斐がある。また長尾川、長野川は沢の規模は小さいものの、滝のスケール、溯行の困難さから異彩を放っている。溯行者にとって残念な事に、車谷中流から小爪川中流までの間、山腹を一本の林道が走っている。従ってこの間の沢を登ると一端林道で中断されることになる。せっかくの楽しい気分が失われること甚だしい。 ここで金山の沢をも含め、アプローチについて述べておかなければならない。2021年、林道早良線(板屋峠へ続く県道136号線の途中から分岐して車谷登山口、坊主ヶ滝下を経由し国道263号線へと伸びる林道)の工事が完了した。沢登りの対象となる部分はこの林道の上流域であるから、林道と沢との交点から入渓するのが能率的である。林道早良線へ入るには、県道136号線の板屋峠手前から、椎原集落から、坊主ヶ滝下からの3コースが取られている。このうち、椎原集落からの道は離合が出来ない部分が多く、対向車が来ると酷い目に遭いかねない。避けた方が無難だ。坊主川から車谷の間の沢に入るには坊主ヶ滝下からのコースを進める。坊主ヶ滝下から林道早良線へ入るには「坊主川」「長尾川」の項を参照。一方、長野川から荒谷川は県道136号線からのコースが良い。県道と林道早良線との分岐は「長野川」の項を参照。 椎原集落からのコースは「車谷」の項を参照。
背振山の沢筋概念図
長尾川(広滝川)
長尾川(広滝川)概説 坊主川と小爪川に挟まれた地域に、4本の沢が見られる。これらの沢は小爪峠北方1キロの所の816m峰(西山)に突き上げ、他の沢に比べて規模が小さい。しかし、ここに述べる長尾川(登山者の間では広滝川と呼ばれているようである。「川・花・こころ」でも広滝川と記載されていた)は結構大きな滝が連続し、快適な沢登りを楽しませてくれる。所要時間2〜2.5時間。
アプローチ 坊主川橋を渡り、0.4キロ程の所で、道が分岐する(坊主川橋までの道のりは坊主川の項を参照)。左の下ってゆく道は広瀬へと至る。右の登り気味の道は小爪川を経て車谷へ至る林道早良線。右の道に入り、0.4キロで長尾川と交差する。駐車場所は通りすぎて0.1キロ程の所に、4〜5台分のスペースがある。ここまで広瀬から来ることも出来るが、広瀬からはコースが分かりにくく、初めての者が簡単に行き着けるとは思えない。坊主川橋からのコースを進める。
長尾川(広滝川)コース解説 Aランク
林道早良線との交点から入渓し小滝を越えながら進むと入渓後15分程で2段、10m滝が現れる。更に2段11m滝、3m滝、8m斜瀑と続き、30m斜連瀑が姿を現す。その後も10m近い滝やナメ滝が出てきて緩みが無い。連続する滝群の最後となる5m斜瀑を越えたところで沢筋が分岐する。右の藪に隠れたような目立たない流れが主流である。こちらを辿ると、更にいくつかの滝が出てきて、最後には西山の西側で踏み跡に出る。左に道を辿るとすぐに三角点が設置してあるなだらかなピーク、西山に着く。左の真っ直ぐ伸びる沢筋はガレ場が続くだけ、最後は稜線上の登山道に出る。登山道を10分程上にたどると、西山である。滝川程のスケールは無く水流が少ないのが物足りない点である。雨後の水量の多いときに溯行すると充実した溯行が楽しめる。下山は左の沢筋を詰めたときに飛び出す登山路を下るのが良い。50分程度で林道早良線に着く。ただし、この道の入り口が分かりにくいので注意を要する。気を付けていないと東へ続く道を辿り大谷川方面へ出がちだから、進む方角を良くチェックすること。
長尾川(広滝川)溯行図
長尾川・2段10m滝 1
長尾川・2段11m滝
長尾川・8m斜瀑
長尾川・30m斜瀑下部
長尾川・5m斜瀑1
長尾川・5m斜瀑2
山田川
大谷川は右の支流として山田川と僧座川を分ける。山田川は小さすぎて溯行する気にはなれなかったのだが、林道早良線が開通し、その交点から立派な15m斜瀑が見える。この滝に誘われて溯行してみた。結構楽しめたが、スケールに欠けるのが最大の欠点。所要時間1.5時間。
アプローチ 林道早良線を辿り、坊主川橋から1.1キロで山田川と交差する。目の前に15m斜瀑が見えるので、間違えることは無い。駐車場は僧座川交差点。
山田川コース解説 Cランク 林道から沢に降り立ち、15m滝を越える。初心者がいるときはザイルを使用すべきだろう。続いて5mチムニー状滝が出てくる。更に斜瀑が続き、計20m斜瀑とする。チムニー状滝はシャワークライムで越える。沢筋の傾斜が急なので、この後もいくつかの滝が続くが、すぐに源流帯となり、5mチムニー状涸れ滝のすぐ上で不明瞭な踏み跡に出る。これを右に辿れば数分で尾根上の登山路に出る。林道まで20分程度。滝の乗り越しは面白いが、スケールの小ささはいかんともしがたい。
山田川溯行図
山田川15m斜瀑
僧座川
僧座川概説 僧座川は規模は小さいながらも適当に滝が現れ、それなりに面白い。気負って出かけるほどの所では無いが、たまには場所を変えてみたいと思う向きには適しているかも知れない。所要時間2〜2.5時間。
アプローチ 林道早良線を辿り、坊主川橋から1.3キロで僧座川と交差する。交点に駐車場。
僧座川主流(右俣)コース解説 Bランク 入渓するとすぐに小連瀑が出てくる。この後、ナメや小滝が続く。入渓後、30分程で8mナメを越えると下の二俣に出る。ここは右の沢(右俣)に入る。入り口は8m滝となっている。連続する小滝を越えていくと下の二俣から50分程でまた二俣に出る。右の沢筋の方が水量が多いものの、こちらはすぐに源流状となる。ここは左の沢筋に入る。小さいながらも滝が続き飽きさせない。稜線に出ると登山路があり、これを東に辿る。大谷川近くで林道早良線に出る。もしくは踏み跡を上にたどり長尾川の項で述べた下降路を降りる。下降は車道まで60分程度。
僧座川左俣コース解説 Cランク 下の二俣から真っ直ぐに伸びる沢筋が左俣。途中に迫力ある15m斜瀑を擁するものの、すぐに源流帯になってしまい退屈な樹林帯歩きが続く。
僧座川溯行図
僧座川・小連瀑1
僧座川右俣・8m滝1
僧座川右俣・10m斜瀑
僧座川左俣・15m斜瀑
大谷川
大谷川概説 大谷川には目立つほどの滝は出てこず、滝の数も少ない。所要時間2〜2.5時間。
アプローチ 林道早良線を辿り、坊主川橋から1.9キロで大谷川と交差する。交点に駐車場。
大谷川コース解説 Cランク 沢筋に添って古い車道が走っている。入渓するとすぐに8m斜瀑が出てくる。さらに6m斜瀑と続き、期待を持たせるがここまで。この後は目立つ程の滝は無く、僧座川終了点付近の稜線に出てくる。下降路は僧座川の項を参照。
大谷川溯行図
大谷川・8m斜瀑
大谷川・6m滝
小爪川
小爪川概説 規模としては大きく、滝の数もそこそこだが、特徴の無い沢である。小爪川は上流域で多くの小沢に分かれるので、位置関係を述べておこう。入渓後、1.5時間ほどで二俣に出る。左から合流してくる沢筋が左俣、真っ直ぐ続く沢筋が中俣(本流)である。中俣はさらに上部で中俣の右俣と中俣の左俣に分岐する。本流は真っ直ぐ伸びる中俣の右俣である。そのまま中俣の右俣を詰めていくと分岐のすぐ上部で右俣、さらに右支流が合流し、最後は小爪峠付近へ突き上げる。本流添いに小爪峠へ登る登山道が付いているので、いつでもここへ逃げることが出来る。左俣は上部で左俣の右俣、左俣の中俣、左股の左俣に分かれる。中俣の右俣は平凡だし、左俣にも目立つ程の滝は出てこない。右俣は5〜8mの滝が連続し、それなりの面白さはある。 また中俣右支流は小さいながらも結構楽しい。
アプローチ 林道早良線を辿り、坊主川橋から3.0キロで小爪川と交差する。川に掛かる小爪新橋より入渓する。小爪新橋手前200m程の所に車3台分ほどの駐車スペースがある
小爪川溯行図
a. 小爪川本流(中俣の右俣)コース解説 Bランク 入渓間もなくゴルジュ状をなし、沢筋が直角に右へ折れる。この奥に2m滝が豊富な水量を落としている。さらに二つほど小滝を超えると登れそうにもない2m滝に出る。ここは左をフィックス伝いに越える。続いて6m斜瀑、5m滝を越えるといきなり堰堤に突き当たる。左から登山道に出て簡単に越える。この後ぽつぽつ滝や渕が出てくるが、途中の3段10m滝が目立つ程度。入渓後、1.5時間ほどで二俣となる。本流は右の中俣、入り口に1mの滝を懸ける。左の沢が左俣である。ここから40分程で左から小沢(中俣の左俣)が合する。すぐにまた二俣となる。ここは左の沢が本流の中俣、入り口に2m2段滝がある。右の沢は右俣である。本流をたどるとすぐに中俣右支流が合流してくる。この後、水量は少なくなるものの、適当に滝やナメ出てきて気持ちの良い溯行が続く。小爪峠直下で本流は右へカーブする。こちらを詰めると途中で7m滝をかけ、すぐに縦走路に出る。ここから小爪峠まで10分。所要時間、新小爪橋より3〜4時間。
小爪川下部・屈曲部
小爪川下部・3段10m滝
小爪川中俣の右俣・4m斜瀑
b. 小爪川中俣の左俣コース解説 Cランク 入渓後すぐに、2m滝、6m滝と連続し、期待を持たせるが、ここまで、その後はひたすらガレ場を登らされる。溯行価値は無い。所要時間、中俣の左俣出合いより1時間。
小爪川中俣の左俣・6m滝
c. 小爪川中俣右支流コース解説 Bランク 小爪峠への登山道をたどると、小爪川右俣を横切った1分後にまた右から小沢が合流してくる。これが小爪川中俣右支流である。入渓後、5分ほどで水流が二つに分かれる。ついケルンが続いている右寄りにルートを取りがちだが、こちらはガレ場が続くだけで、沢登りの対象外。溯行の対象となるのは左の沢筋である。分岐点から左の沢筋を詰めようとすると途中の藪が酷く、通行不可能状態。まず右の沢筋に沿って進み、入渓後15~20分で水流が消え沢筋が広くなった辺りから、左へトラバース、小尾根を越えて左の沢筋に入る。いきなり核心部となり5m滝が出てくる。すぐに40m斜瀑が続く。この斜瀑は背振山塊北面最長かも知れない。続く6m滝は中央をシャワークライムで越える。垂直に近いから途中に確実なピンが1本欲しくなる。この後も適当に滝が続くが水量が少ないのが残念。藪コギも無く稜線に出た後は、高みを目指して進んでいくと906mピークを越え、稜線に出てから15分ほどで縦走路に合流する。ここから小爪峠まで10分。所要時間、右支流出合いより1.5〜2時間。
小爪川中俣右支流・5m滝
小爪川中俣右支流・斜瀑40m
小爪川中俣右支流・6m滝
d. 小爪川右俣コース解説 Bランク 短いながらも滝が連続し、それなりに面白い。小爪川の各分流中では最も溯行価値が大きいと評価出来る。右俣出会いの1分程上にも右から小沢(小爪川中俣右支流)が合流するので、入り口を間違えないように。沢に入って5分ほどで5m斜瀑に出会う。続いて、2、8、2mと連瀑が続く。この後も適当に4〜5mの滝が続いて楽しませてくれる。最後は西山と主稜線を結ぶ尾根上の踏み跡に出る。下山は西山経由か踏み跡を背振縦走路までたどり、小爪峠経由。所要時間、右俣出会いから西山への踏み跡まで1.5〜2時間程度。
小爪川右俣・5m斜瀑 1
小爪川右俣・樋状8m
小爪川右俣・6m斜瀑
e . 小爪川左俣の左俣コース解説 Cランク 入り口からしばらくは小滝が連続し、やがて斜連瀑10mが出てくる。入渓後、40分程度で右から沢が合流する(左俣の右俣と左俣の中俣)。この上で広範囲な伐採地帯となり、景観が一変する。荒廃した伐採地を抜けると、林道へ出る。林道を横切り、上部へ入ると中だるみとなり、しばらくして石垣に出会う。なぜこんな所に石垣など築いたのか、見当が付かない。最後の部分でまた滝が出てくるものの、水流がほとんど無くなってしまう。最後は「見晴らし岩」付近に突き上げる。所要時間、左俣出会いから2時間程度。
f. 小爪川左俣の中俣、左俣の右俣コース解説 Cランク 左俣の左俣と分かれ、緩やかな流れを詰めていくと、間もなく伐採地に出る。両者とも林道から上部は、ほとんど滝も出てこぬまま、ガラ場を登って縦走路に出る。行く価値の無い沢筋だから詳しい説明は省略する。所要時間、左俣の左俣との分岐より1.5時間程度。
小爪川左俣・斜連瀑10m
小爪川左俣・10mナメ
小爪川左俣の中俣・5m斜瀑
鬼ヶ鼻谷
鬼ヶ鼻谷概説 公式の名前は付いていないようだし、登山者の間で共通する名称も無いようだ。ここでは「川・花・こころ」で仮称されている「鬼ヶ鼻谷」を使用する。車谷と分かれ鬼ヶ鼻の岩場に突き上げるこの沢は、地図を見る限り快適な溯行を期待させる。しかし、これほど期待はずれの沢も珍しい。鬼ヶ鼻谷は大きく、右俣、中俣、左俣とに分かれている。中俣は稜線近くでまた3本の支流に分かれる。多少とも滝が出てくるのは中俣であるが、それもたいした物は無い。右俣、左俣は滝らしい滝も出てこないままに稜線に突き上げる。所要時間2~3時間。
アプローチ 林道早良線を辿り、坊主川橋から4.5キロで鬼ヶ鼻谷と交差する。。または椎原峠登山道入り口から西へ1.1キロ。椎原集落経由のコースについては車谷の項を参照。
鬼ヶ鼻谷コース解説 Cランク 入渓後、変化の無い沢筋を詰めていくと20分程で二俣に出る。左の沢が左俣、右の沢が中俣である。中俣を詰めると10分でまた二俣に出る。右の沢が右俣、左の沢が中俣である。中俣に入ると30分程度でで林道と交差する。稜線近くになって小滝がいくつか出てくるものの、証文の出し遅れ、水流が少なく、迫力も無い。藪コギは無く、鬼ヶ鼻周辺の登山路に出る。右俣、左俣は滝らしい滝も出てこない。行くだけ無駄といった感じ。
鬼ヶ鼻谷、椎原谷溯行図
鬼ヶ鼻谷中俣・5m滝 1
椎原谷
椎原谷概説 椎原谷は右俣、左俣に分かれる。右俣は鬼ヶ鼻周辺に、左俣は椎原峠に突き上げる。どちらの沢も滝が少なく興味は無い。所要時間2~3時間。
アプローチ 林道早良線を辿り、坊主川橋から5.4キロで椎原谷と交差する。または矢筈峠登山道入り口より西へ0.2キロ。椎原集落経由のコースについては車谷の項を参照。
椎原谷コース解説 Cランク 入渓点付近は竹藪。30分程平凡な沢を詰めていくと二俣に出る。右俣は鬼ヶ鼻周辺へ突き上げ、左俣は椎原峠へと突き上げる。どちらの谷も一般登山路が伸びているので溯行が嫌になったら登山路を登れば良い。
・ 椎原谷右俣
右俣へ入り、10m斜瀑、3m滝を越えると分岐から30分程で林道を横切る。林道から10分程度で登山道からも見える8m滝を懸けているが、簡単に登れてしまう。その他には目立った滝は出てこないし、変化の無い沢だという感じをぬぐえない。上部で登山路が離れる。この先は樹林帯が続くだけ、鬼ヶ鼻のすぐ下で登山路に出る。
・ 椎原谷左俣
分岐から40分程で林道を横切る。林道から上部は倒木が酷い。苦労してこの部分を抜けると6m程の滝が二つ出てくる。この上にも小さな滝が出てきて右俣よりは変化に富んでいる。最上部は椎原峠へ出る。
椎原谷左俣・6m滝 2
椎原谷右俣・8m滝